夏の話。
知り合った女を一人暮らしの部屋に持ち帰ったまではよかった。
が、どうやら精神的に病んでるご様子。

その子は病院から処方された薬を飲んだ後、ろれつの回らない口調で「私は21じゃなくて本当は17なの」

「中国で生まれ、死んだ姉の代わりに育てられた。だから名前も姉のものを継がされてる」

「中国ではストリートチルドレンをしていた」

「シャバより病院生活の方が永い」

「巫女だ」

「芸者だ」と訳の分からない話を延々しだした。

平静を装いつつも「怖いよ~」とガクブルってる俺に「この部屋、前にカップルが同棲してたんちゃいます?」とその子は言った。

確かにそう。
引っ越してしばらく名字の違う男女宛の郵便物が度々届いてた。
わざと「え?」と聞き返すと「心中してはりますわぁ~」(巫女の話題の後からずっと京都弁)と。

その子曰く心中はこの部屋ではしていないらしい。
その後も、出会って数時間では分からないような俺の身内に関することを言い当てた。
俺の恐怖はMAXに達しようとしていた。

しかし追い討ちをかけるようにその子は「隣りの部屋、出るで」と断言した。
・・・何故知ってる?
俺がこの部屋に来て1年目で4回入居者が変わった。
その後丸一年ずっと空き部屋のまま。

気持ち悪いのが、4組目が出た後すぐに老夫婦の会話が早朝聞こえていた。
俺は、引っ越して来た雰囲気も無かったので多少驚きつつも「今度は朝の早いジジババが越して来たか。嫌やな~」と思っていた。

だが、その声はたった一回のみ。
生活音もなければ、引っ越して行った物音もなし。
その子は「隣りには、若い女が体育座りで頭を抱えたまま、呼んでいる。自分の存在に気付いてくれる人を」と続けた。

一年ほど前までいた彼女は、おばあさんが霊能者で、本人も多少ながら霊感あり。
その彼女がしょっちゅう俺の部屋と、隣りの部屋を間違えて立ち止まる。

そのことを話してみると「彼女が間違えようのない隣りの部屋で思わず立ち止まってしまうのは、呼ばれてる念に引き寄せられてるだけのこと」と説明した。

病んでるだけなら相手にしないが。
支離滅裂な話しの端々が符合していたり、身の回りのことを言い当てたり・・・。

もちろん性欲なんてわくわけもなし。

「えらい、女つかまえてもうた」と後悔しつつ、その子を寝かせることにした。

俺はパジャマ代わりにとTシャツを渡した。
で、驚いて声を失った。
着替えたその子の両腕にびっしりと縫合した跡が。
翌日、彼女を送り届けることなく帰っていただいた。