数年前、友人が体験した話です。

その頃、友人のS木君には悩みがありました。

「ちょっとした、他の人が聞いたら呆れるような悩み」だと前置きして、話の最後までどんな悩みなのかは教えてくれませんでしたが。
でも当時のS木君にとっては深刻だったそうで、いつまでも胸に居座る不安のせいで食欲が減退したりと、酷い状態に陥ったそうです。

胸に靄のようなものが湧くたび、自分の胸に「大丈夫、きっと良い方向になる」と言い聞かせたり、普段はやりもしないようなおまじない(携帯で出来るちょっとしたやつだそうです)を試して不安を追い払おうと必死になりましたが、それでもその悩みは数日もの間消えなかったそうです。

ある日、家事をしている最中にまた不安になったS木君は、いつものようにそれを追い払おうとしていました。

「大丈夫、大丈夫だ」と言い聞かせ、終いには神頼みまでしたそうです。

「神様、もし×××(願い)になったら、左手の親指の爪をあげます」

聞いた時には、なんだそりゃと思いました。
お賽銭や自分の好きなものをあげますだったら解るけど、いくらなんでも自分の爪をあげるなんてと。
その時の彼からみれば、自分の爪一枚で悩みが終わってくれるなら安いものだったそうですが。
勿論、S木君も本気ではなかったみたいで、お願いをした後には「馬鹿か俺」と自嘲しながら、親に頼まれていた家事を終わらせたと言います。

ところが、それからしばらくたった頃。
S木君が朝起きると、なぜか解りませんが、彼の左手の親指の爪が根本から剥がれて消えてしまっていたそうです。
爪が剥がれた痕からの出血を、親指を口にくわえて止めながら、S木君は剥がれた爪を探しました。
ところが、いくら探しても見つからなかったそうです。
ベッドの血がついた所に落ちておらず、その後部屋の隅々まで探しましたが、結局見つからなかったそうです。

話を聞いた直後は、ただの冗談話かと思いました。
ただ、しばらく左手の親指に包帯を巻いていたのは僕も見たことがあります。
ちなみにS木君によれば、爪が消えたのは彼の悩みが解消された少し後のことだったらしいです。
あれがただの合理的に説明できる偶然の出来事だったのか、それとも本当に不思議なことが起きたのか。
いまだに解らないが、とにかく願いは本当に叶ったそうです。