その老婆は夕方、4時頃に現れる。
背中に大きな風呂敷包みを背負い、出会った者にこう問いかける。

「足はいらんかね?」

運悪く、居残りで帰りが遅くなった少年は、老婆の問いに呆気に取られた。
足?足って何の?
返答に困っていると、老婆は更に詰め寄ってくる。

「なぁ、坊や。足はいらんかね?」

顔を覗き込むように聞いてくる老婆の不気味な笑顔に、思わず後ずさりした少年の意識はふと、老婆が背負う風呂敷包みに向けられた。
大きくて、何やらたくさん荷が詰め込まれた風呂敷。
あの中には、何が入っているのだろう――と。
もしやあの中には、たくさん人間の足が詰まっているのではないか――。
その考えにゾッとした少年は、思わず叫んだ。

「い、いらないよ!僕、足なんていらない!」

その答えに老婆の笑みが、ニイィ、と深められる。
その直後、少年の絶叫が辺りに響き渡った。
声を聞いた人々がやって来ると、そこにもう老婆の姿はなく、片脚をなくした少年が血溜まりの中に倒れているだけであった。

老婆に出会ったら、「いらない」と答えてはいけない。
足を一本もぎ取られてしまう。

「いる」と答えるのもいけない。
足を一本くっつけられて、余分な足が増えてしまう。
助かりたければ、こう答えなければいけない。

「私はいらないので、◯◯(友達の名前)の所に行ってください」

足をなくすか、足を増やすか、友達を売るか。
老婆に出会ったら、最悪の選択肢しか待っていない。