Hの学校は共学だったが、男子が圧倒的に多かったので、男子だけのクラスと共学クラスに分かれていた。
女子がいるのに話しかけられない、という状態になると、男達は自然硬派になった。
髪の毛も、女子には人気がなさそうなワイルドなものがクラスでは賞賛された。

二年の夏、H達は北海道へ修学旅行に行った。
男だけというのも、それはそれで楽しいものだが、バスに乗ったHは、夏服の男子だけの車内を見て、男だけの世界を思い知らされる気持ちになった。
共学クラスでは、お菓子を分け合ったりして盛り上がっていたかもしれないが、男子クラスでは、ガイドさんの懸命な盛り上げにも、男達は今一つ乗れずにいた。
それでも、某航空会社の経営するホテルに辿り着いた時には、予想外の高級感に皆の心は浮かれた。

消灯の時間。
H達の班はまだトランプで遊んでいた。
罰ゲームは好きな子の告白。
要領の良い者はアイドルの名前で誤魔化し、正直に打ち明けた者が馬鹿を見る。
正直に言ってしまったHは、気分を変えようとカーテンに手をかけた。
すると、「よせよ。張りつきババアがいるかも知んないだろ」

班長がそう叫んで、カーテンを開けるのを止めた。
張りつきババア? 何だそれは。
Hは聞き返そうとしたが、「やっぱ俺も正直に言うよ」

告白を決心した者がいて、Hは張りつきババアが何なのか聞きそびれてしまった。

夜も更けた頃。
トイレに起きたHは、布団に潜り込んだ時に班長の言葉を思い出した。
自然と、ラクダ色のカーテンに視線が行った。
あの向こうに、何かいると言うのか。
まさか。
いる筈はない。
ここは地上六階なのだから。
自分の想像に笑いながら、Hはなんとなく、カーテンを引き開けてみた。

そこに、老婆がいた。
昆虫のような手足で身体を支えており、口と鼻をガラスに押し付けながら、部屋の中を覗いていた。
あまりに異常なものを見たHは、声にならない悲鳴を上げながらカーテンを閉めた。

数秒。
もしくは数分後。
少し落ち着いてきたHは、友人達を起こして知らせなくてはと思った。
だが、その前にもう一度、そこにいるか確認しなければ。
怖かったが、Hは再びカーテンを開けた。

そこに老婆の姿はなかった。
人気のない通りと、街灯が見えるだけだった。
(豊島区の学校の話)