学校帰りに電車に揺られていると、耳元で誰かの声が囁いた。
Nさんの両隣には誰もいない。
にも関わらず、不明瞭な囁きが聞こえるのだ。
まるで見えない誰かがすぐ横にいるように。

「・・・の・・・、・・・ぃ・・・」

「・・・は・・・と・・・」

「・・・なん・・・せ・・・」

はじめは何を言っているのかよく聞き取れなかったが、電車があと一駅通過で目的の駅に着くという段階で、声はようやくはっきりしたメッセージに変わった。
声は、今Nさんの乗ってる車両の乗客のことを喋っていたのだ。

「あの男はこれから、**高校の女子高生と援助交際のご予定だ。会社の経費で豪華三昧してからホテルでお楽しみ。電車に乗る前に買った下剤を飲ませてひり出させた下痢糞を豚みたいに食って・・・」

「あの男は建設会社の監督だ。職場じゃ『鬼』なんて言われているが、本当はちょっと包茎をなじられただけで勃起する豚野郎だ。昨夜もちょっと女王様に縛ってもらっただけでだらしない顔でおっ勃てて・・・」

「あの女子高生の趣味は気に入らない奴のグロ画像の作成だ。ネットで見つけた画像に嫌いな先公やウザい女の顔を貼り付けて、そいつらが散々なぶられた末に虫けらみたいに殺されて、ゴミのように捨てられる想像をニヤニヤ・・・」

Nさんは頭を振ったり、周りから変な目で見られるのも構わずに耳を塞いだりしたが、それでも声は、まるで彼女の頭の中で発されているように聞こえてくる。
もう聞きたくないと思うNさんを無視して、次々と乗客達の話を囁いてくる。

そのまま、全員分を喋るまで続くかと思われたが、ちょうど10人目のことを話し終わり、電車がNさんが降りる駅に着いたところで、声はピタリと止んだ。

その後、Nさんがその声を聞くことはなかった。
あの声が何だったのか、声が語っていたのはその人の秘密だったのかはわからない。

もう二度とあんな体験はしたくない。
Nさんはそう思っていたが、時々、またあの声が聞こえないかと耳を澄ませてしまうことがあるらしい。