俺が小学生くらいの時かなぁ。
俺は片親で母親が出稼ぎに出ちゃってたもんだから、中学生くらいの間までずっとじいさんばあさんの家で育てられてたのよ。

じいさんばあさんの家はホントにドが付く位の田舎にあってさ。
だから自然だけは沢山在って、俺はよく森の中で虫取りなんかして遊んでた。

その日も確か、昼飯を食った後、蝉を取りに出かけたんだよ。

今考えると、なんだか森に入った時にいつもと空気が違うような気がしたんだよな・・・。
でも、ほぼ毎日行ってたような森だから、勘だけ頼りに奥まで分け入ってた。

どんだけ進んだろうな。
たぶん家出てから一時間も足ってなかったと思うんだけど。

突然、目の前に紺碧(こんぺき)の湖が出てきたんだ。

「あれ?こんな所が在ったのか・・・」とか思いながら湖を眺めてると、ちょうど正面の竹林になってる辺りで「ガサガサ・・・ガサガサ・・・」って聞こえる。

何か動物かな?って思ってたら、白い蛇が出てきた。
それも尋常な大きさじゃない。
たぶん目測でも5~6mは超えてたと思う。

その大蛇が「すー・・・」っと湖の上を這って近づいてくる。
そして俺の目の前、湖の上でとぐろを巻いてじーっと俺の目を見つめてくる。

怖い。

金縛りにあったみたいに目が逸らせない。
煩い位喚いてた蝉の声も聴こえなくなってる。

どれくらいそうしてただろう?
最初は喰われるんじゃないかって怖くてしょうがなかったんだけど、白い蛇の目を見ていると段々なんだか淋しい様な、郷愁に近い様な感情が湧いて来て・・・。

そう思ってたら突然、その白い蛇は来た時と同じように、湖の上を這って、竹林の方へ行ってしまった。

たぶん、時間にして一時間も無かったと思うんだけど、気が付いたらもう空が紅く染まってた。
おかしいことに気づくと段々怖くなってきてさ。

わーわー喚きながら森を走り抜けて家に帰った。

子供だったから、ちょっと大き目の蛇が過剰に大きく見えてたのかも知れんけど・・・。
でも、普段は蛇の首根っこ掴んで振り回してたようなガキが大きめな蛇を見たくらいで怖がるかな・・・?

たぶんそれからだったと思う。
零感だった俺が色んな物を見るようになったのは。

あぁ、それから後日、湖の在った辺りに行ってみたんだけど、湖なんて無くてボロッちぃ祠?みたいなんが在った。

まぁ、俺にはとんでもなく怖かったんだよ。