私が小学生のとき、私と祖父母と妹の4人で旅行に行きました。

泊まった旅館というのが、人ひとりがやっと歩けるような通路がところどころにある迷路のような汚く古臭い、とても恋人同士で来られるようなところではない旅館でした。
しかし、旅の一座を呼んだりと、そこの地域ではそこそこ有名な旅館だそうです。

旅館に着き部屋へ案内されると、早速、私は妹と旅館の中を探検することにしたんです。
あちこち歩き回っていると、我々が泊まってる部屋の通路の突き当りのすぐ角に自販機コーナーがあるのを見つけました。
カップラーメンの自販機や、栓抜き付きの瓶ジュースの自販機、普段見ないような珍しい自販機ばかりだったので、何か買ってみたくなり、部屋に戻って祖父母にたかったんですが、「もうすぐご飯だからあとで」と一蹴されました。

その後、我々は温泉に入り、御馳走を食べ、宴会場のようなところで一座の芝居を見てたのですが、小学生にはそんな貧乏くさい芝居ちっとも面白くなく、退屈を感じてると、妹が「お姉ちゃ~ん自販機行こ~」って言うんです。
祖父母から小遣いをねだり奪うと我々は自販機コーナーに行きました。

自販機コーナーは薄暗く、ゴキブリの住処のようなところでしたが、瓶ジュースやアイスクリームやカップ麺の自販機、そのほかにも按摩(あんま)付きの椅子や漫画雑誌などもあったりと、興味をそそるものがたくさんありました。

なかでも面白かったのが、漫画本っていう、いかにもジジイ好みの古い絵柄のエロ漫画雑誌。
妹と二人で誰か来ないかと冷や冷やして見てました。

しばらく見ていて、オッサンがタクシーを貸し切り、泥酔して寝てる女性を犯す漫画を見ていたときのことです。
急にウンコくさい匂いが辺りに立ち込めてきたんです・・・。
妹が漏らしたのかと勝手に思い込み、何食わぬ顔をしてエロ本を見ふけっている妹が急に憎くたらしなり、妹の顔面をバチンと一発引っ叩いてやりました。

「『信じられない!』」といった顔つきで妹が私を見ます。

しかし、それでもウンコくさいので、早く妹のそばから離れたく自販機コーナーから通路に出ようとしたその時です。

曲がり角の出会い頭に祖父が立ってたんです。

しかし、あきらかにいつもの祖父と様子が違います。
顔はボケ老人特有のポカーンとした表情(祖父は全然ボケてなかった)、足は生まれたばかりの子馬のようなおぼつかないガニ股。
そして、下には何も穿いてない状態。

リアル3D―RPGのモンスターに出くわした気分でした・・・。

あとから出て来た妹が「わっ!」と驚くと、祖父は不気味に「うぃひぇひぇひぇ」と笑い出しました。
こんな祖父の姿見たくない、というのがそのときの心境です。

私は妹の手を引っ張り、泣きそうになりながら我々の部屋に戻ろうとすると、通路に点々とウンコが落ちてます。
「まさか!?」と思い振り返ると、ちょうど祖父の尻からウンコがボソッと落ちる瞬間でした。
それを見た私の目から涙がボロボロとこぼれ出しました。

部屋に着くと祖母がいました。
私は今あったことが説明できず、ただ泣きながら「おじいちゃんん・・・おじいちゃんが・・・」と、言葉が続きませんでしたが、祖母は何が起こったのか、すべてをわかったかのような口調で、「またスイッチか・・・」と言うと、すぐに部屋を出て行きました。

私が絶望して嗚咽をあげながら泣いていると、10分くらい経ってからでしょうか・・・?祖父が部屋に戻ってきました。

いつもの祖父です。
下もちゃんと穿いてます。

「ん?どしたんか?」となぜ私が泣いてるのかもわかってない様子でした。

それからすぐに祖母が戻ってきましたが、特に何があったと言う話はしませんでしたし、私も聞けませんでした。

温泉も石を積んだ露天風呂のようなものを想像してましたが、銭湯みたいなタイル張りのせまい風呂でがっかりでした。
そして、私が中学生のときに祖母が亡くなりました。
その葬式のとき、ふと、この出来事を思い出したんです。

この話を妹にしてみたんですが、妹は覚えてないって言うんですよ。

4人で旅行に行ったこと、私に殴られたことは覚えてるんですが、ウンコや祖父の奇行についてはまったく記憶にないと言います。

妹が言うには、突然私に殴られたかと思うと、手を引っ張られ部屋に戻るや否や、急に私が泣き出したと言うのです。
祖父母はそのときまだ芝居を見てたのか部屋におらず、私たちが戻ってきてから10分くらい経って戻ってきたそうです。

今考えても不思議というか、怖い体験でした。