昔から家の中には大きな鏡があった。
悪戯心で別の大きな鏡を向かい合わせれば、鳥居に似た不思議な道が連なって、それに映る自分へ手を振れば誰もが同じ動きをした。

それから私は、毎日のように合わせ鏡で遊ぶ子供になった。
ただ九番目の私だけは、ゆっくりと手を振っている、そんな気がした。

いつもの部屋、友達のいない私は鏡を向かい合わせにしようとズ、ズ、ズ・・・と動かす。
その矢先、鏡が倒れガッシャン!と割れる音が響き、その日は母にひどく叱られてしまった。

次の日には、以前よりも一層大きな鏡を買ってきてくれた父に、心から感謝する。
今度は慎重に鏡を合わせて、いつもと同じ姿の自分を見つめていた。

しばらく眺めていたのに・・・はじめは全く気付かなかったが、七番目の顔が、つぎはぎをしたみたいな顔になっている。
手を振ればゆっくり振返してきた。
きっと、新しい鏡になったせいだと思った。

その夜、以前よりも大きくなった鏡を片付けるのが面倒になり、合わせ鏡のままにして眠りについた。

夜中に突然、私は寝苦しさで目を覚ました。
時計の針を見れば、ちょうど午前4時を回ったところ。
起きるには早過ぎると、着替えだけ済まして寝直すことにした。

ベッドからのっそりと起き上がり着替え、そして戻ろうとした時、なぜか急に合わせ鏡のことが気になり近づいて覗き込んで見る。

・・・なんだろう何かが違うふと、体が凍りつくほど恐ろしくなり汗が吹き出た。

「そんなはずない!きっと寝ぼけているんだ!」そう思いもう一度数え直して、みると、3番目の私の後ろから、顔だけを、スー・・・と傾け『私』が私を見た。
なんとも言えない目で・・・。

その瞬間、心臓が痛いくらい音を鳴らした。
もう、息をすることも忘れ口を大きく開閉させている。

あまりのことに瞬きすら、ままならない中、ソレは何事もなかったかのように3番目の『私』の後ろに重なるように隠れる。
私は決死の思いで無理やり瞼を閉じ続けた。

どれだけ時間たったのか、何日も寝ていない様な疲労感と恐怖で、落ち着かない呼吸をどうに錯覚だと暗示をかけながら、保証のない安心を覚えさせた。

もう一度深く息を吸い込み、震えながら恐る恐る目を開いて見れば、そこには同じ私達がいた4番目も着替えた服に苦しそうに息をする私。

ほら、やっぱり気のせいだった、寝ぼけて怖い想像をしてしまったんだ。

もう早く寝てしまおう。

そう思いベッドに向き直ろうと動いた私にぼそっ、と耳元近くで聞こえた声で足が床に張り付いた。
僅かに目の端で鏡を見やれば、長い指が近くまできている。

恐怖で意識が飛んでしまった・・・。

次に目がさめたのは朝だったが、何事もなかったような静寂が広がっていました。
それからは何事もない日々が続いています。

あれが一体なんだったのか、また来るのか・・・ときより思い出して、憂鬱になります。