ソニー・ビーン

イギリスとフランスの100年戦争がまだ続いていたころ、イギリスのグラスゴーの町に、馬にまたがったまま、ぐったりとしている男がたどり着いた。

男は頭から血を流し、身体のあちこちに切り傷もある。
誰かに襲われたのは間違いない。

人々が駆け寄って行くと、男は血だらけの顔をあげて「助けて下さい!妻が・・妻が食われてしまう!」と叫んだ。
助けてくれというのはまだ理解出来るが、「食われる」というのはどういうことだろうか。

男に事情を聞いてみると、この先の海岸で何十人もの人間に突然襲われたというのだ。
棒で殴られ、馬から引きずり下ろされて、相手は完全に自分を殺すつもりだったのが、はっきり読み取れたという。

この盗賊たちの中にはなぜか女も子供も混じっていた。
そして彼らの目は一様にギラギラし、明らかに普通の人間とは違っていたという。
まるで食べ物に群がる動物のような目をしていたため、直感的に「食われる」と感じたというのだ。
たまたま馬が暴れてくれたため、男は一瞬のスキをついて馬に飛び乗り、なんとか逃げてきたらしい。
だが妻までは助けられなかった。

それにしても男の真剣な訴えは、まんざら誇大表現でもなさそうだ。
そういう盗賊団がいるのなら、町の人間としても放ってはおけないということで、すぐに400人の兵と猟犬まで用意して大捜索隊を組み、男の言う海岸まで捜索に行くことになった。

その海岸はひっそりと静まり返ったところで、普段は人を見かけることは滅多にない。
盗賊団は女も子供もいて馬も持っていなかったというから、この付近で生活しているに違いない。
だがそこは、それらしい建物もテントも・・そして船も見当たらず、ただ漠然と岩と海が広がっているだけであった。

しばらく捜索を続けていると、ある方向から異様な匂いが漂ってきた。
それは誰にとっても大変な悪臭で、その方向に何らかの異常があることは誰にでも判断出来た。
捜索隊はみんな一様に、その匂いのしてくる方向を目指し歩く。

するとまもなくぽっかりと口をあけた大きな洞窟の前にたどり着いた。
中からは異様な体臭と死臭、そして何かが腐ったような匂いが漂ってくる。

この中に踏み込むのは相当の度胸が必要であったが、何十人もの兵士が意を決していっせいに中に踏み込んでみた。
中にいたのはやはり男の言った盗賊団であった。
盗賊団たちは別に抵抗することなく、あっさりと捕まった。

しかし、次々と洞窟から出て来る盗賊団の人間はちょっと変わっていた。
髪は伸び放題になっており、新しいスカートをはいている少年、聖職者の服を着ている男、ボロボロのズボンをはいている女・・。
いかにも襲った人間から剥(は)ぎ取った服を身につけているという感じだ。

とすると、あの少年がはいている新しいスカートは、男の妻から剥ぎ取ったものだろうか・・?
彼らはみんな一様に異常な体臭を発し、着ているものも男女の区別がなく、盗賊団のわりには男と女の比率は同じくらいであった。
そして老人から赤ん坊までいる・・・。

町の広場まで連行された盗賊段は全部で47人。
盗賊団は捕らえたが、あとは男の妻を捜さなければならない。

兵士たちは再び洞窟の中へと入って行った。
しばらくすると洞窟の中から凄まじい悲鳴が聞こえてきた。
ほどなくして兵士たちが次々と走って洞窟から出て来る。
彼らの顔は引きつり、中には激しく吐いている者もいた。

洞窟の奥には男の妻の変わり果てた姿があったのだ。
胴体も手足もバラバラに切り離され、腹は切り裂かれて内臓はきれいに食われていた。
これからもっと食べるところだったのだろう・・・。

また、奥の方には、人間の手や足を干し肉にしたものが吊るされており、人体の塩漬けや肉片、腐りかけた頭、干物などが大量に発見された。

この47人の集団は、ここで旅行者などを襲っては洞窟で解体し、食べていたことは間違いない。
そしてもう一つの事実が分かった。

この47人は、一人の老人を長(おさ)とする一つの家族であったということだ。
長である老人の名前はソニー・ビーンという。

ソニー・ビーンは、若いころ故郷を出て妻と共にこの地に流れ着き、洞窟で生活し始めた。
そしてそれから25年・・・。
妻との間に出来た子供たちは子供同士で近親相姦を繰り返し、ここまでの集団に成長してしまったのだ。
そして彼らは外部とは一切接触を持たないで生活してきた。

25年間で彼らが食べた人間は推定で300人という。
ソニー・ビーン一族は兵士たちの手によってエジンバラに護送された。

事実が全て判明すると、彼らは裁判もなしにリースの港町で全て処刑された。
男は両手両足をオノで一本ずつ切り落とされていき、そして最後に殺された。

女はトロ火で足元からあぶられ、死ぬまであぶり続けられた。
処刑の方法も、これまで一族が行ってきたことに負けないくらい残酷なものであった。