むかし秩父の荒川上流ダム群のあたりに、『イツザミ』という村八分にされた3戸ほどの集落があった。

その人達の間では法律によって禁止される昭和初期まで風葬が行われていた。
遺体を風葬する洞窟には鵺というのが棲みついており、死体の肉をキレイに食べて骨だけにしていると言い伝えがあるそうだ。
そしてその骨を洗骨し壷に入れて洞窟に納めるが風習だったらしい。

日本が高度成長期に入る頃、父が住んでいる地元で戦時中に使われていた近くの防空壕から、気味の悪い奇声が聞こえてくると噂が広まった。

あるとき地元の若い男達3人が酒を飲んだ勢いで、その防空壕へ肝試しに入った。
男達が戻ってくると得体の知れない大きな獣の死骸を持ち帰り、これが化物の正体で退治してやったと地元民に勇ましく見せびらかしていた。

だが数日後その獣に直接トドメを刺して殺した男が突然死んだ。

そして葬儀が行われ火葬された男の遺骨が、なぜかまったく残らず全て灰になってしまい、結局それで祟りだ呪いだの噂や騒ぎが大きくなり揉めに揉めていたら、それを見かねた土地の有力者が火葬炉の火の調整の不手際よって起きたのが原因で、祟りではないという事情を説明して遺族に弔慰金を渡して騒動を収拾させた。

だがその後・・・。

土地の有力者は防空壕の傍にあの獣の魂を鎮める小さな塚をひっそりと祀っている。
地元民はそれを「鵺塚」と呼んだが、塚がダムに沈んだ後でも公でその話をする人はいなかった。

この話を父が亡くなる直前に聞かされ、私はよくある迷信の類と思い本気にはしていなかったが、父が他界し葬儀の最中にあることに気づいた。

父方の身内や親戚の葬儀で骨上げをしたことが一度もない。