学生時代の夏の事です。
私はその夜、蒸し暑さでなかなか寝付けずベッドでゴロゴロしていました。

やっとウトウトとしてきたかと思えば、また目が覚める。
そんなことを繰り返してるうち、外の虫の音に混じって「スースー」という寝息が聞こえる事に気づきました。

最初、隣の部屋の両親の寝息かなと思いましたが、いくら隣とは言え寝息が聞こえる筈がありません。
それに私はベッドで身体をくの字にし、横になって寝ていてたので、両親の部屋は私の背中側になります。

しかし、その寝息は明らかに私の向いている方から聞こえてくるのです。
ベッドは壁に寄せいたので向いている先は壁があるだけ。
意識を集中させたせいか、寝息は先程より大きく、そしてはっきりとした音に変わり、それは寝ている私の目の前から立てられているようでした。

私はゆっくりと目を開けました。

「スースースー」

一瞬目の前の光景を理解することができませんでした。
男の人が私と同じように身体をくの字にし、背中を私の方に向け、大きな寝息を立てて寝ていたのです。

お父さん?誰?もしかして幽霊??
とうとう私も幽霊を目撃してしまった!?

そう思った途端恐ろしくなり、体がガクガクと震えました。

逃げたかったのですが、その男の人に気づかれるのが怖く体を動かす事さえできませんでした。
私は自分で自分の肩を強く抱き、力一杯目を閉じて目の前にいる男の人が消えるよう祈り続けました。

どれくらい時間が過ぎたか分かりません。
時々意識が散漫とする中、まだ寝息が聞こえるか耳を澄ますと虫の音しか聞こえなくなっていました。
やっと居なくなった・・・ホっと安堵して目を開けます。

「!!!!!!!!!!!!!!!」

私の僅か10センチ程目の前に男の人の顔がありました。

横を向いて寝ている私と向かい合う形で寝ていたのです。
暗く、そして近すぎる距離にどんな顔なのかさえ分かりません。

ただその目は白く大きく見開かれ、私の目をジっと見つめていました。
悲鳴を上げたと思うのですが、声になっていたかどうか。
私はあまりの恐怖に気を失ってしまいました。

気がつくと翌朝。
私は一目散に両親の元に駆け寄りました。

昨夜の出来事を聞かせても、どうせ夢でも見たのだろうと案の定、信じてもらえませんでした。
私があまりにも強く訴えるので、父は根負けし私の部屋を見に行きました。

一通り部屋を見渡した後、網戸を開けて防犯用の格子に手をかけた時、格子はギという軽い音と共に大きく傾きました。
防犯用の格子は下側の留め金が外れており、人が入れる程の隙間ができていたのです。

父は直ぐ警察に連絡しました。
駆けつけたお回りさんが周囲や指紋まで調べましたが、侵入者の痕跡は見つからず、盗られた物も被害も無いようなのでとりあえず周辺のパトロールを強化するという事で帰っていきました。

その日からしばらくは両親の部屋で眠りました。
部屋にはエアコンを付けてもらい、日中以外窓を開ける事はほとんどありませんでした。

あの男の人が誰だったのか、変質者なのか、幽霊だったのかは分かりません。

ただあの時、私が寝ている間に何かされていたかもしれないと考えると・・・今でも恐怖で体が震えます。