東京に在りながら自然が色濃く残る高尾山には毎年多くの人が訪れ、山中には観光客向けの蕎麦屋やお土産屋が多数軒を連ねる。

その高尾山のお店には失踪者の写真が多数集まってくるという噂がある。

高尾山ケーブルカー。
高尾山は有名観光地であると共に自殺者・失踪者が集まる場所としても密かに知られている。

自殺者がとりあえず富士樹海に足を運ぶように、八王子周辺に住む人間が自殺や失踪を考えた場合、とりあえず高尾山に向かうのである。

故に失踪者を探す家族も高尾山に足を運び、蕎麦屋やお土産屋を回って失踪者の写真を配り、もし見かけたら家に連絡してもらうか優しく接してもらうようにお願いするそうだ。

死を考えている人間を邪険に扱えば、ますます命を絶ちたくなるので、お店の方に優しく接してもらい、自殺を考え直してもらえれば・・・という願いからの行動である。

しかし登山客があまりにも多いので写真を渡されても失踪者を見つけるのは容易ではないし、そもそも高尾山に来ているとも限らない。

お店には「無事に見つかりました」という電話が稀に入ることもあるが、大抵の場合、失踪者の安否は分からないままである。

様々な理由で消息を絶つ人間が増えているこのご時勢、失踪者を探しに来る家族の数は一向に減らないという。

そして、失踪者の写真を捨てるわけにもいかず、引き出しの奥には安否の知れない人を写した写真だけが溜まってゆくという。