俺には双子の片割れである弟と、俺達よりひとつ上の年子の兄貴がいる。
これから書くのは、兄弟三人で体験した、幼い頃の話だ。
三人で話を補完したから、結構細かくまとめることができた。

俺と弟は幼い頃、実家前の山で、危うく神隠しに遭いかけたことがある。
深い山だ。
それを連れ戻したのは、兄貴だった。

その日、俺ら双子は親が兄貴の相手をしていた隙に家を抜け出して、前の山で遊んでた。
探検のつもりだった。
でも、いざ帰ろうとすると、『目に見えない何か』が俺達を取り囲んで歩いていることに気がついた。20人ぐらい。
木々の間から家が見えるのに、歩けども歩けども、なぜか山から出られないんだ。
帰れないかもしれない。
俺達は、あまりの恐ろしさに泣きわめいた。

そうしていたら、俺達を誰かが呼ぶんだ。
兄貴だった。
俺達は必死で兄貴に呼び掛けた。
兄貴は当時家で飼ってた黒い雑種犬「クロ」を連れてきていた。
クロは凄い唸ってた。
よく覚えてる。

兄貴は山の際まで来ると、俺達をみつけ、リードを解いて『見えないものたち』にクロをけしかけた。クロは吠えまくりながら、『見えないものたち』を蹴散らした。

俺と弟は兄貴のいる山の外へ走った。
あともう少し、というところで俺は髪を捕まれ、引きずり倒された。
振り返ると、極至近距離で、崩れた『何か』が俺の髪を食ってた。
もぐもぐしてる口元が、だんだん見えてくるんだ。
ぼそぼそに皮が剥けてた。
周りにはまだ姿の見えない他の『何か』も集まってきていた。
死ぬ。
幼心に、そう悟った。

すると次の瞬間、そいつに石がぶつかった。
石礫は次々と飛んでくる。
兄貴と先に抜け出した弟と、知らない子供だった。
『何か』たちは怯んで、俺から離れた。
そこへクロが突撃し、俺は慌てて山の外へ飛び出した。

『何か』たちは山の外へ出られないようで、悔しそうに山中へ戻っていった。
しかし、俺の髪を食ったやつは、じっとそこにいた。
目は見えなかったけど、俺を見つめていた。
と、俺とそいつの視線の間に見知らぬ男の子が立ちふさがった。
小学生ぐらい。
教科書で見るような弥生髪で、裸足で、真っ白な着物みたいな格好をしてた。

その子は、俺を見続ける『何か』を睨んで「山へ帰れ」と言いはなった。
よく通る、強い声だった。
唇だけの『何か』は、クチャクチャ口を動かしていたが、男の子の睨みに負けたのか、山の影へと消えた。
そのあとのことは、俺はあまり覚えていない。
安心しきって大泣きに泣いてた。
兄貴によると、つられて弟も泣いたらしい。

男の子は俺達に「家に戻れ」と言った。
涙をぬぐった瞬間、男の子は姿を消していた。

家に帰ると、大騒ぎになっていた。
俺と弟がいなくなってから、半日も経っていたらしい。(後年に両親から聞いた)
体感時間は1時間ぐらいだったんだけどな。

双子が消えたことに気がついた母は、その後、兄貴も姿を消したことに気がついて、パニックになっていた。

すわ警察・・・・・・というところで、兄貴が泥だらけの俺達を連れ帰り、クロが傷だらけになっていたので、別の意味で大騒ぎになった。

なにがあったのか兄貴が話す。
大人たちの顔が青ざめていく。

俺が泣きながら髪の毛を食われたことを伝えると、じいさまは鋏を持ち出して俺の髪を切り、家の前、山と家を分ける川にそれを流した。

それから、集落の氏神様のところへ行ってお神酒を下げてもらい、微量を飲まされた。
三人で「苦い苦い」と騒いで、じいさまにえらく怒られたのを覚えてる。
余ったぶんは頭から振りかけられた。

そして、仏間でご先祖様方に報告すると、三人で正座をさせられ、こってりしぼられた。
俺達は泣いた。
兄貴も泣いた。
ここが一番地獄絵図だった。

ちなみにクロは、功労賞(鯖焼き丸ごと一匹)をもらって、ご満悦に尻尾ふってた。

こっから下は補足。
後日、そういうことに詳しいおばあさんに伺いをたてると、おばあさんは俺達を見て、くすくす笑った。

曰く。
俺と弟には、神様を祭る祠という意味の名前があるから、いろんな神様に守られている。
気に入ってもらえる。
ただし、お前たち双子は、そのおかげで、よくないものたちからすれば涎がでるぐらいの「おごっつぉ(俺達の地域で、ご馳走の意)」だ。食べれば力がつく。
だから、悪いものが寄り付きやすい連中から、タチの悪い嫌がらせとか受けるだろうけど、我慢しなさい。
これから先、危険なことをするなよ、と釘を刺されて、家に帰った。


以上が当時体験した、神隠しに遭いかけた話です。