8歳ぐらいのときに体験した話。
俺の住んでいた近所に市営住宅があったんだけど、そこはなぜかエレベータに二階のボタンが無かった。
なのに二階は存在していて外から窓越しに二階を眺めると木の天井が目に入ったのを覚えている。
なんというか、子供ながらに気味が悪いと感じたし寒気がした。
その二階へは階段からも行けないようになっており、階段の途中で二階へ通じる扉もなかった。
その住宅に住んでいた友達Aは「あそこにはルンペンがいるらしいぞ!」って冗談で言いながら笑ってた。

ある日、そろばん教室の帰りで夕方6時ごろだったと思う。
例の市営住宅は帰り道なんだけど、前を通るときに誰かに呼ばれた気がした。
立ち止まって市営住宅に目をやると、二階の窓が目に付いた。
中では白い人影が右へ左へと行ったり来たりしていた。
するとたまたまそこをクラスの友達Bのおばちゃんが通りがかったので「おばちゃん、あそこに誰かおるで」って呼び止めた。

おばちゃんは「ええ?誰もおらんよ?」って俺が指差したほうを見ている。
俺は少しイライラして「ほら!あそこにおるって!白い人影が動いてるやん。よく見て!」と強い口調で言った。

おばちゃんは困った顔をして「ああ、ほんまやねえ。誰やろねえ」と嘘を言いながらそそくさと帰っていった。
だって本当に見えていたらもっと凝視するはずだ。
その後も俺は白い影を見ていると、影はピタッと止まって手招きみたいな動作をし始めた。

俺が恐怖で硬直していると、人影が二人、三人と増えた。
一人は手招き、ほかの二人はこちらを直視している。
恐怖に震えた俺は何を思ったのか、その市営住宅に住んでいるAのところへ行こうとエレベータに乗った。

Aの部屋は4階だ!早く!早く!とエレベータの中で焦った。
1→3→4とエレベータが上がって行き、4階に着くと同時に俺は転がるようにエレベータから飛び出した。
友達の住む部屋へ一目散に走った。

しかし、途中で俺は妙なことに気がついた。
扉が無いんだ。
今までエレベーターから数十メートルは走ったはずなのに通路には一つとして扉がなかった。
それに気付いた俺は叫びながら無我夢中でエレベータに戻った。
でもボタンを押しても1階からエレベータが動かない!

・・・くそ!こんなときに!
どうしよう・・・。
どうしよう・・・・・・。

・・・そうだ!階段で降りれば良いんだ!

俺はエレベータの右側を少し行ったところに階段があることを知っていたので走った。
すると階段の扉が見つかり、俺は救われた気持ちで扉のノブに手をかけたがそのとき、扉にかかれた数字が目に入った。

それは4でもない・・・2でもない・・・・。
42だった。

42階!?ここが?どういうことだ?

俺は動揺して、そのとき初めて外の風景に目をやった。
ところが外は真っ暗で何も見えない。
第六感がやばいことを告げている。
逃げないと!

そのとき、エレベーターが開く音がした。
恐る恐る覗くと、Aだった。

俺は安心したせいか体の全身から力が抜けるのを抑えて駆け寄った。
するとAが一言言った。

「おまえ、何か見たんか?」

その顔があまりにも真剣だったので、いや見てないけどって嘘を言ってしまった。
するとAは少し笑って家まで送ってくれた。
そしてバイバイした後にAがボソッと言った。

「嘘つきはいらん」

は?って思ったが、家の扉を開けると母親が「あんた今何時や思ってんの!?」って怒って来たので、時計を見たら9時だった。

え?三時間もあそこにおったんか?と不思議な気持ちになった。

次の日、学校に行ったら昨日家まで送ってくれたAが交通事故で死んだと聞かされた。
事故があった日は昨日の9時過ぎで俺と別れたすぐ後だが、俺の家と市営住宅とは逆方向の場所で車に轢かれたらしい。

ひょっとするとAは何か知っていたのだろうか。
あの白い人影と関係あるかは謎であるが、俺は関係がある気がしてならない。
親に聞いても、あそこにはちょっと変わった人が住んでるんや、としか言ってくれないし。