あれは、私が大学二年生の頃でした。
実家から出て勉強に専念したいとアパートで一人暮らしを始めた頃です。
トイレの前に大きな鏡があり、それを覗いていた時のことです。
私は髭剃りの為に鏡を見ていたら、別の人物が重なり合うように写っていたので「疲れているんだろうか?」と独り言を呟いてその時は気にしませんでした。

ところが数日経った頃に金縛りと怖い夢を見るようになりました。
髪の長い女性と明治か大正時代に良く見られる作業系の男性が出てきます。
何かを訴えているのですが、声もせず聴き取れません。
そんなことが数ヶ月続いて、一人暮らしにも慣れた頃とうとう事件が起こりました。

アパートの部屋に帰ると部屋の電気が点いていたのです。
来客があったのか?と不思議な感じでドアノブを回しましたが部屋は鍵が掛かったままでした。
部屋に入ると全ての電気が消えていたので何事かと思いました。

初めは誰かの悪戯かと思いましたが、ブレーカーはドアの上なので悪戯は誰にも出来ません。
夜なので暗闇でしたが、恐る恐る部屋に土足のまま入ってみるとコードを抜いてあるドライヤーや掃除機が一斉に鳴り出しました。
慌てて部屋から出て行こうとすると、押入れから女性が飛び出してきました。
夢の中に現れた女性です。

「この部屋から出ていけ!」

その女はそう叫んでいました。
初めはそれが幽霊だと思わず不審者だと感じていましたが、考えてみると上半身から下がなく、時折首だけの時がありました。

この瞬間にパニックになっていた私は、現実が掴めずにいました。
逃げようとする私の服を引っ張り、部屋に引きずり込もうとする女性に対し私は無我夢中で部屋の玄関の方へ逃げようとするのですが女性の霊はもの凄い力で部屋に押し込みました。
逃げ場がないのでもはや闘うことしか出来なくなっていました。

飛んで来る首に対し物を投げたり部屋の中を逃げ回ったりキッチンにある包丁を持ち出し、女性の飛んで来る頭に対して斬り付けたり・・・。

ありとあらゆる抵抗を示しましたが、最後は私が怖くなって部屋を飛び出し知人に電話をしました。
公衆電話から助けを求め、知人が部屋に最初に踏み込んだ時は押入れの襖が包丁で破れていたり、誰のものか分からない長い白髪混じりの髪が落ちていました。

知人は私に落ち着くように言ってくれたのですが、もうアパートに住むのは限界なので結局は引っ越すことにしました。

後日、そのアパートでは大正時代に心中があったと聞かされました。
アパートを手配してくれた不動産会社の専務から聞きました。
私が住んだ部屋だけ入居者が入れ替わるのが激しく落ち着きがなかったので「おかしいと思ってたんですよ」と言われました。

現在、そのアパートは都市整備の為に壊されましたがまだ、その霊達はその場に残ってるのかも知れません。

20年以上前に私が体験した実話です。