子供の頃に変なものを見た。
遠縁で実際は血が繋がってないんだけど、親同士の仲がいいので俺は夏休みになると毎年◯家に何泊かしていた。

俺はその頃4歳くらいだった。

昼過ぎに遊び疲れて仏間の隣の部屋で寝ていると、側でポタッポタッって音がする。
で、なんかカリカリというか、ズルズルというか、何かが動いている気配がした。

でも眠かったからシカトしていたら、ほっぺたに何かが触れた。
手ではらって見てみると、虫みたいだった。
白くて大きな幼虫みたいなのが畳の上でウゴウゴしている。
男児って虫好きだから、「大物ヤッター」ってなってすぐさま拾ってみた。
でも、なんか先端のほうに堅い部分があるから変で、寝ぼけ眼で「ん?」ってよく見ると、それは虫などではなく人の指だった。

血の気がまったくないのか真っ白で、ほっそりとしていて女性のものだと思う。
でも、床を這ってるからか、爪のあたりは割れてたり黒っぽいものがつまっていて汚い。

「ウワッ!」

投げ捨てたけど、なんと指は畳の上に立ち上がった。
んで、ピョコピョコ飛んだり、ぶんぶん横に揺れたりして、コミカルな動きをする。
馬鹿ガキだった俺は「ウッヒョーイ!」ってなったね。
よく覚えてないけど、なんか質問すると、指は頷くみたいに曲がって応答してくれる。

「これはオカンたちにも見せなくては!」っと引っ掴んで持っていったら、移動中に手の中から消えてしまった。

トトロでメイがマックロクロスケ逃がしたときみたいなもんだった。

親に言っても「どうせ寝ぼけてたんでしょ」とか言われてスゲー悔しかった。

で、俺はフィンガーさん(仮名)をなんとしてでも捕まえてやると心に決めて、捜索することにした。
すると、あっさりさっきの部屋で見つかるフィンガーさん。
つーか、キノコみたいに部屋の壁に生えていた・・・。

摘み取って、今度こそとガン見したまま持っていこうとした。
でも、部屋から出ようとすると、なぜかフィンガーさんはニュルンと手から飛び出て元の部屋に戻ってしまう。

必死になった俺はかなりの時間をかけて、いろんな場所から持ち出しに挑戦してみた。
襖からは駄目。
窓は俺の背では越えられない。

どうしようか考えていると、フィンガーさんが襖がある壁の角のほうに這って行った。
畳の上で跳ねているので、側の壁を見てみると土壁の古い屋敷だったので壁と壁の間に隙間ができている。
でもさすがに指は通りそうにない隙間だったが、幼児の俺はフィンガーさんを思い切りその隙間に差し込んだったww

フィンガーさんはかなりの時間モゾモゾして、なんとか壁ぬけに成功。
廊下に出て、床に落ちていたフィンガーさんを回収した。

「これで俺を馬鹿にしたオカンを見返せる!」

フィンガーさんを連れて行こうとすると、廊下でまたニュルンと手から逃げられた。
慌ててもう一回捕まえようとすると、今までで友好的?だったフィンガーさんがいきなり飛びかかってきて、頬を引っ掻いた。

驚きと痛さで俺号泣。

だってほとんど垂直に刺さったみたいだったもん。
泣き声に驚いて、誰かが廊下の奥から駆けつけてくる。
すると、まだ俺の肩にいたフィンガーさんが、慰めるように怪我してない頬を撫でてくれた。
そうこうしているうちに、オカンと家の人到着。
で、オカンの顔を見たら、なんか知らんが急に眠たくなってぶっ倒れる俺。

次に目が覚めた時には自分の家で、翌日になっていた。

予定ではもう少し◯家にお泊まりするはずだったけど、子供なので不思議に思わずそれ以降、一度もその家には行かなかったけど、特に好きでもなかったから気にせず。

で、俺が大学生になった頃だ。
俺はサークルの後輩A子に一目惚れした。
喪だったけど、とにかく好きだったので猛アタックしたけど、とにかく逃げられる。
告白して断られるとかではなく、会いに行こうとするともうA子がいないんだ。

なんとか会えても、ひきつった顔で逃げ腰で、もう告白どころじゃない。
喪だからアタック方法間違えちゃって、気持ち悪がられたかなと俺涙目。
そのうちA子はサークルにも来なくなっちゃった。

友人を通じて、悪気はなかった、もう関わらないようにするから、俺のせいでサークル止めるとかはしないでくれって伝えて、なんとかA子も顔出すようになった。

その一年後くらい。
長期休み中に、サークルで恒例の旅行をすることになった。

歴史系サークルだったもので、主に城とか神社巡り。
でも歴史が好きなやつ半分、ただの旅行サークルとしてキャッキャしたいやつ半分だったので温度差が酷い。
とある史跡を見て回っている途中に、キャッキャ組がはぐれてしまった。
携帯に電話しても、計画的犯行なのか誰も出ない。

仕方がないので、時間を決めて、真面目組もばらけていないやつを探すことになった。
サボって遊びたいなら、たぶん簡単に見つからない場所にいるんだろうなと思ったので、俺は敷地の中でも人気がないほうへ行ってみた。
と、生垣の角を曲がったら、好きだったA子と鉢合わせ。
俺、心の中で号泣。

サークルには普通に来るようになったけど、いまだにA子からは避けられてたからね。
アウアウしていると、側から野太い悲鳴が聞こえてきた。

駆けつけると、石碑の側で、サークルのやつ数人が地面にへたり込んでいる。
やつらの視線の先を見て、俺はビビったね。

女の上半身をさらに半分にしたようなやつが、地面でウゴウゴしている。
なんつーの、綺麗に刃物で切った感じじゃなく、轢かれて壊れたマネキンみたいなのだった。

胴体は胸のあたりまでしかなく、顔は割れたみたいに顎までしかなくて、左腕も肩近くで崩れている。
恐すぎて、喉からヒッって音しか出なかったよ。

サークルのやつらは完全に腰を抜かしてた。
すると、女の上半身が、唯一ちゃんとある右手を使って這い、こっちに来ようとし出した。

凍りついたまま、逃げようかどうしようか迷う俺。

「そうだ、A子だけは連れて逃げなきゃ!」とか考えていたら、急にA子に腕をガシッと掴まれた。

凄い勢いで、サークルのやつらの前に連れてこられる。
抵抗しようと踏ん張ろうとしたら、A子に背中突き飛ばされて、女の上半身の前に倒れこんだ。

いくら嫌いだからって、この仕打ちはないだろ・・・と思ってマジ泣きしそうになったら、急に前の女上半身の動きが止まった。

短い胴で立ち上がって、ピョコピョコ飛んだりくねくねしたり。

「へっ?」って思っているうちに、女は穴に潜り込んだモグラみたいに、地面にひゅっと吸い込まれて消えちまった。
消えた地面には穴なんかなかったけどね。

次に気がついたのは、その地域の病院のベッドの上だった。
どうやらあの後、A子以外は全員気を失って、救急車で運ばれたらしい。
幸い、目が覚めると全員すんなり返されました。

その後、A子と二人きりの時に話を聞かされた。
彼女は、先祖がシャーマンつーの?巫女さんみたいなのだそうで、霊とか見える人らしい。
ただし、そんなに力は強くないと言っていた。

その彼女いわく、俺はやばいものに守られている。
憑かれているんじゃなく、守られているんだそうだ。

なので、並みの悪霊くらいじゃ太刀打ちできないらしく、あの場を切り抜けられるのはこれしかないと、俺を霊の前に突き飛ばしたんだそうだ。
A子もテンパっていたらしく、あのときのことは謝罪された。

あと、サークルで俺を避けまくっていたのは、俺を守っているやばいものがどうにもA子の体質に合わず、俺自身が嫌いだから避けてたとかそういうことじゃないと言われた。

守られているったって、俺はこれまでの人生で、なにか特別良いことがあったわけでも、九死に一生を得たことがあるわけでもない。
そう言ったがA子は「そういう意味で守られているわけじゃない」と言う。
あと、なんか頬っぺたに印をつけられてると言われた。

<続く>