その日の天候は気象データ通りに安定した夜だった。
幻想的な月光の雲海を遥か下に眺めながら、淡い計器灯の光の中コーヒーをすすりタワーと交信する・・・いつも通りだ。
だが、普段無線に雑音など入らないのになぜか雑音が入る。

「調子が悪いなぁ・・・」

ブツブツブツと悪態をつきながら、ふと右翼の方を見たら、何かが飛んでいる。

「機長!あれ!軽飛行機がっ!!」

「こんな高高度に軽飛行機なんか飛ばないだろ?!疲れているんじゃないか?」と言いながらキャップも右翼側を覗き込んだ。

!!!

洋上である・・・あり得ない。

二人でよく観察すると、月光に照らし出された機体は・・・濃い緑に塗られ日の丸が書き込まれている・・・。

「そんな・・・あれ・・・ゼロ戦じゃないですか・・・」

見間違えではない。
確かにそこに飛んでいたのだ・・・雑誌でしか見たことない60年前の飛行機が眼下に居たのだ。

しかも、900キロの巡航速度と同程度の速度で飛んでいた・・・。
プロペラ機では有り得ない速度・・・。

この話を報告はしていない。
頭がおかしいと思われるだけだから。

ちなみに、これと同じ理由で変なものを見ても誰も報告はしない。
報告すると地上勤務になり給料が減るからだ・・・。