俺が住んでるアパートから200mほど離れたところに、大学病院へ行く道と、ちょっとした通りとが交差する十字路があって、そこは音の出る信号機がついてるんだけど、そこであった話。

俺は大学生で、その日は飲み会があってだいぶ遅くなった。
深夜の2時を過ぎていたと思う。

かなり酔っ払って一人でふらふらと歩いてその交差点まできた。
ここいらは日中こそ病院への出入りで車通りがあるが、こんな時間だと人も通らずひっそりとしたところなんだ。

交差点にだいぶ近づいたところで、赤信号で待っている人がいるのを確認した。

「あー世の中には律儀な人がいるな、車なんて通らないんだから赤でも渡りゃいいのに」、と思いながら近づいていくと、女の人。
ただ不思議なのは、今になって思い出そうとしても、女だったということを覚えているだけで、年格好や服装の記憶がさっぱりないんだ。

その人が信号待ちしてるのに俺だけ赤でも渡っていくのはちょっとやましい気がして、その人の後ろで立ち止まった。

変質者とか思われても嫌だからけっこう離れて立っていたんだけど、その人は下を向いていて「くっ、くっ」というような声を出してる。

笑ってるようには見えなくて・・・泣いてるのかもしれないと考えて、ますます嫌だなと思った。
遠回りして帰ろうかとまで思ったけど、そのとき信号が青に変わった。
その人は歩き出し、『通りゃんせ』のメロディが流れてくる。
俺もつられるようについて歩き出したんだけど、何となく違和感がある。

「んーあれ、この音楽って夜には鳴らないんじゃなかったっけ?」

気がついたときには道路を半分くらい渡っていて、その人は向こう側の歩道につくところだったんだけど、突然音楽がハウリングしたような割れた音に変わった。

ギュワギュワギョワという音の中で、その人の行く道にぼうっとにじむような感じで赤い鳥居が出現した。

ええ!!っと思った。

そこは向こうの歩道のはずなんだけど、鳥居の中は真っ暗で、遠くに小さな明かりがちらちらしている。

なんだこれ、と呆然と見ていると、その人は鳥居の前で立ち止まって、こちらを振り向こうとするような仕草をした。
振り向くかどうか迷っているように見えたけど、結局振り向かずにその鳥居の中に入った。
そしてその瞬間に鳥居は消えた。

信号が変わろうとしていたので、急いで鳥居のあった場所まで行ってみたが、女の人の姿はどこにも見えないし、もちろん鳥居が立っていた跡もない。
ただ赤っぽい小さなお守袋が下に落ちていたが、薄気味悪いんでもちろん拾わずに帰った。

その後、その交差点は何度も通っているがおかしなことはない。
音楽はやっぱり午後の7時過ぎ以降には鳴らないということがわかっただけだった。