その晩、彼は眠れなかった。
テレビをつけようとしたら急にバチンと消えた。
部屋中真っ暗になった。

ブレイカーが落ちたのかと思ったが、一階にわざわざつけに行くのも面倒だったので、そのまま横になることにした。

相変わらず眠れない、さらに眠れない。
下宿の裏庭から足音が聞こえた。
その足音は一人ではなかった。二人、三人。
足音は息を殺しながら何かを探しているようだ。

誰かの部屋を探している。
表からではなく裏から。
なんかやばいとは思ったが、幽霊とかその類とは考えなかった。

自分の部屋の下でも立ち止まったが、足音が完全に消えたのはその横の部屋の前だった。
少しして地震が起きた。
最初のうちはたいした揺れじゃなかったが、その揺れは止まずますます強くなってゆく。

地震じゃない・・・。

その時思い出した。
あの足音の主はどうなったんだ。
恐る恐る窓に近づく。
カーテンを少しめくる。

揺れがまた激しくなる。
窓を開けないと斜め下を見れない。
カタカタ音を立てる窓をガタガタと開ける。
その時周りに明かりがなかったのにそこだけは見えた。
男が二人斜め下の部屋の窓か壁に両手をついていた。
ドンドンと揺らしていた。

驚いて後ろに飛びのいた。
出口は裏庭とは逆だが逃げられないと思った。
布団に包まり必死に他のことを考えようとした。
その時窓を開けたままだということに気がついた。

このままでは眠れない。
でも窓には近づきたくない。

揺れは弱いながらもまだ続いていた。

布団を被って窓を閉めにいく。
なんでこんな日に風があるんだ。
カーテンも揺れる。

見たくもない窓の外がチラッと映る。
何もない、何もない。
またカーテンがめくれる、それは風ではなく、男の手だったという。
そしてその瞬間、黒紫の男の顔を見た。
朝気がつくと窓は閉まっていたらしい。
すぐに荷物をまとめて大学に行った。

それから数日、部屋に戻らなかった。
それでもどうしても必要なものがあるので友人を連れて昼間に再び部屋に足を踏み入れた。
別に部屋は荒されてなかったが、そこら中に足跡がついていた。

私はこの話を聞いても、単なるやくざとかじゃないかと思い聞いてみると、「壁や天井にも足跡がついてたんだぞ。やくざのはずがないだろう!大家にも見てもらって、別の物件を紹介してもらったんだよ!」と彼はかなり不機嫌そうでした。