これは俺の体験した話です。

数年前、友人Aに「胆試しに行かないか?」と誘われ半端無理やりに近い形であるローカル線の踏み切りに行くことになった。
この踏み切りは曰く付きらしく、列車があまり通らないローカル線にも関わらず、飛び込み自殺が後を絶たないことで有名だったらしい。

その友人Aは「夜の零時ちょうどに踏み切り前でクラクションを鳴らすと自殺者の霊がでる」と言う、どこにでもありそうな噂話を聞いて早速試したくなったそうだ。(それに付き合わされる俺にとっては傍迷惑な話である)

友人Aの運転する車は内心渋々嫌々な俺を乗せ、高速道路で3時間。
高速道路を降りて、そこから更に2時間掛けて俺と友人は件の踏み切り前に到着した。
時間は既に午後23時を回り、踏み切りの周囲は完全に真っ暗。
周辺に家屋どころか街灯すら無く、明かりはというと弱々しい蛍光灯が薄らボンヤリと踏切を照らすのみと、見た目だけでも不気味な雰囲気が漂っていた。

当の友人はニヤニヤと笑みを浮かべつつ「ここがあの話の踏み切りか・・・」と嬉しそうに呟いていた。
んで、俺はと言うと(さっさと終わらせてくれ)と心の中で思いつつ、MDウォークマンの音楽を聞いていた

そんなこんなしている内に時間も流れ時刻は零時前、友人は「そろそろだな」と呟きスタンバイをする。

無論、零時になると同時に車のクラクションを鳴らす為である。
友人と俺(嫌々)は携帯電話で時報を聞き、零時までのカウントダウン開始をする・・・。

時報『・・・午前零時ちょうどをお知らせします・・・ピッ・・ピッ・・ピッ・・ポーン』

友人A「良し、今だ!!」

パパァ―――――――――――ッ・・・。

夜闇を切り裂くように友人の車のクラクションが周囲にこだました・・・。

だけだった・・・。

いくら待てども、夜闇にボンヤリと浮かびあがった踏み切りには幽霊どころかそれらしい物すら現れなかった。

そして当の友人は機嫌悪そうに「なんや・・・結局何も起きなかったやん」とぼやく始末。
俺は『ほらな・・・何も起きなかっただろ?』といった感じの冷ややかな視線で機嫌悪げな友人を眺めていた・・・。

カンカンカンカンカンカンカンカン・・・。

友人と呆れる俺の不意をつくように踏み切りの警報機が鳴り始め、列車の接近を知らし始めた。

俺と友人はその不意打ちに少々驚きつつも「こんな時間にも電車が走るんだな?」とか「走るとしても回送列車だろ?」などと話している内に、ガァ――――――ガタンゴトン・・・ガトンゴトン・・・と、妙に古びた単行電車がモーター音を響かせつつ踏み切りをゆっくりと通過して行った。

結局、それ以降は何事も起きることもなく、少し不満げな友人と少し疲れ気味の俺は帰路についた・・・。

だが、俺は少し妙なことに気が付いた・・・。
あの時走っていった電車である。

電車がゆっくりと走っていった為、目で確認で来たことだが、その電車は深夜にも関わらず、車内は妙に混んでいたのである・・・。

おまけにその乗っている人は老若男女様々で一様に生気の無い表情を浮かべているように見えた。
俺はその見たことを妙に思いつつも、その時は「近くに祭りでもあって、その帰りの人で込んでいたのかな?」と勝手に自己解釈したのであった。

そしてその胆試しから数日後、俺は別の友人Bと酒を飲みつつバカ話をしていた
当然のことながらその胆試しの話も話題に出し、Aが意気込んでいたのに結局何も起きなかったこと、そしてその直後に電車が走ってきて少し不気味だったことを友人に話した。

と・・・その途端に友人の顔色が変わり、「おい、お前・・・その胆試しをしたのは何時の話だ?」と聞いてきたのだ。

俺は急に顔色を替えた友人Bに首を傾げつつ「え?数日前の話だぜ?」と答えた。

「嘘だろ?・・・それは有り得ない話だぞ!?あそこはとっくの昔に廃線になって、線路すら残っていないのだぞ!?」

少し鉄の入った友人Bの話だと、その踏み切りのあるローカル線は数年前に廃止となり、その踏み切りも線路も全て撤去されて、何も残っていないと言うのだ。

俺は友人Bの話を黙って聞くしか出来なかった・・・。

あの日、俺と友人Aが見たあの踏み切りと電車は一体何だったのだろうか?
そしてその電車にのっている乗客は一体どこへと向かっていたのだろうか?
・・・それは誰にも分からない、知るのはその車内の乗客だけなのだろう。

その時以来、俺は真夜中の踏み切りで電車が通るのを待つのが嫌になった。
夜の闇の中から、あの時見た電車が来ると思うと背筋が寒くなるのだ。

なぜかと言うと・・・あの時の電車の乗客は皆、生気の無い目でこちらを見ていたのだから。