※このお話には「アケミ(後編)」があります。

去年の5月に起きた話。

大学に入学し友達も何人かできたある日の事、仲良くなった友人Aから、同じく仲良くなったBとCも遊びにきているので、今からうちに来ないか?と電話があった。
時間はもう夜の9時過ぎくらい、しかもAのアパートは俺の住んでいるところから大学を挟んで正反対の方向にあり、電車を乗り継いでかなり先にある。
時間も掛かるしちょっと面倒なのだが、特にすることもなく、そのうえ土曜の夜で暇だった。
俺はAのアパートへ向かう事にした。

乗り継ぎ駅のホームで待っているとき、ふと気付いたのだがホームで待っている人がやけに少ない。
「土曜の夜ってこんなもんだっけ?」と疑問に思ったが、特に気にもせず電車に乗り込んだ。
すると電車の中もやけに空いていて酔っ払いらしい2人組みが乗っているだけだった。

特になんとも思わず席に座り、携帯を弄りながらぼーっとしていると、その酔っ払い2人も次の駅で降りて行き、代わりに俺と同い年くらいかな?の女の子が乗ってきて俺の向かいくらいの位置に座った。

最初は気付かなかったのだが、ふと携帯を弄るのをやめて顔を上げると、その女の子がやたら可愛い事に気が付いた。

黒のセミロングくらいの髪型でちょっと大人しめな感じ、ぶっちゃけ言えばモロにタイプの子だ。
が、別に女の子と話したことが無いとかそういうのではないけど、彼女いない歴=年齢の俺に声をかける勇気があるわけもなく、『出会いなんてあるわけないよなぁ』と心の中で思いながらふとその子を無意識に見つめてしまっていた。
しかも間の悪い事にその子と目が合ってしまった。

「ヤバイ、キモい奴だと思われる!」と慌てて目を逸らしてずっと窓越しに外を見ていました・・・風な態度を取ったのだが、傍から見てもバレバレだろう。

目的地の駅はまだ5駅も先だ、俺は「どうしよう、次の駅で下りるべきか、でもそれだと余計不自然じゃね?」などとあからさまにキョドって葛藤していると、「クスクス」と笑い声が僅かに聞こえてきた。

「え?」と俺が正面を向くと、女の子が俺のほうを見て楽しそうに笑っている。
そして、楽しそうに「なんですかぁ?」と俺に話掛けてきた。

「え?マジで?何このマンガみたいなシチュエーション」と思い浮かれまくりながらも、表面上は冷静さを取り繕いながら「いや・・・外を見ていただけだけど・・・」と返すと、あろう事かその子はクスクスと笑いながら「私のこと見てたよねー」と言いつつ俺の隣へと移動してきた。

内心大喜びしながらも、観念した俺は「ごめん、見てました・・・」正直に答えた。
その後15分ほどの間だが、俺はその子とかなり色々話した。

名前はアケミちゃんというらしく、学部は違うが俺たちと同じ大学に通っているらしい。
しかし、その時は気付かなかったのだが、後になってこの時の会話を思い返してみると、明らかにアケミちゃんの言動はおかしかった。

最近話題になっていることを話したかと思えば、急に何年も前の話をし始めたり、時事関連も詳しいかと思えば「この前の地震こわかったねー」というような話には不自然なくらい反応が薄かったり、同じ話を繰り返し出したかと思えば、急に無表情で黙ってしまったり。
完全に「可愛い女の子とお近づきになれた」という状況に有頂天になっていたその時の自分はまるで解らなかったけれど、後から思えばなんといえばいいのか、自分が見聞きした事ではなく、他所から伝わった情報をただ聞きかじって覚えただけといえば良いのか・・・上手く説明できないが、そんな不自然さと違和感がアケミちゃんの言動にはあった。

ただし、浮かれまくっていたその時の俺にも一つだけ気になることがあった。
電車が走り僅かに揺れるたびに「カチ・・・カチ・・・」とプラスチックのような硬く軽い感じの物がぶつかり合うような、なんか変な音がする。

俺は何の音だろうとあたりをキョロキョロしたのだが、音の正体がわからない。
アケミちゃんがその様子を見て「どうしたの?」と聞いてきたが、音の出所も解らないし、別段気にする事もないと思った俺は「いや、とくに」と流した。

音の正体については後でわかる事になる。

電車が目的地の前の駅に差し掛かった頃、アケミちゃんのバッグの中の携帯が鳴った。
バッグを空け、携帯を中から取り出そうとしたとき、俺はバッグの中にとんでもないものが入っているのを見つけて一瞬思考が停止してしまった。

ボロボロにさび付いた異様にでかい中華包丁2本・・・。

明らかに10代の女の子が持つには相応しくない代物だ。
というかこんな物を日常的に持ち歩くやつがいるとは思えない、明らかに異様な光景だ。
アケミちゃんは直ぐにバッグを閉じてしまったが、俺の見間違いという事はない。
その間も「カチ・・・カチ・・・」と例の変な音はし続けていた。

そこで俺はやっとふと我に返り状況を分析してみた。

「そもそもこんな可愛い子が、目があったってだけで唐突に声をかけてくるって状況がおかしくね?そんな上手い話あるわけがねーよ、この子ヤバイ子なんじゃねーのか?」という疑念が出てきた。

疑念というより確信に近かったが・・・。

そして、このまま目的地の駅で降りるのはまずいと感じた俺は、ひとまず次の駅で降りることにした。
ただし、下りようとすると着いてくる可能性もある・・・。
そうなると申し開きが出来ないし余計にピンチになるのが解りきっているから、電車が駅に停車し、発車直前、ドアが閉まる寸前で降りる事にした。

そうこうしているうちに電車が駅に着いた。
アケミちゃんはまだ電話をしているが、チラチラとこちらを見たりもしているのでうかつに動けない、目が合うたびに背筋に寒いものを感じながらも、愛想笑いを浮かべながらタイミングを伺うと、発車の合図の音楽と同時に「ごめん、ここで下りるから」と一方的に言って電車を駆け下りた。

案の定、アケミちゃんは反応できず、電車はそのまま発車し行ってしまった。
ひとまず難を逃れる事ができた俺は、とんでもないものに出会ってしまったと思いながらも、さてこれからどうしようかと考えた。

Aのアパートまではまだ結構距離がある。
というかまだこちらに来て2ヶ月も経っていない俺に、ここから目的地までの道順など解るわけもない。
かといって次の電車に乗った場合、次の駅でアケミちゃんが待っていたら余計にヤバイ。
仕方がなく、俺はAに電話をして後で事情を話すからと住所を聞き、駅を出てタクシーでAのところまで向かう事にした。
アケミちゃんにもう一度出会うリスクを考えたら、千数百円の出費のほうがずっと良い。

Aの家に着き、かなりほっとした俺は「おいやべーよ、なんかすげーのに合っちまったよ、都会こええよ!」と大げさに、かなり興奮気味に3人に事の事情を話した。
AもBもCも、当然全く信じてくれず、「嘘くせーw」とゲラゲラ笑っていると、ピンポーンとドアチャイムが鳴った。

時間はもう夜の11時近く、こんな時間に来客など当然あるわけもない。
俺は「いや、まさかな・・・完全に振り切っていたし」と思っていると、Bが冗談半分に「アケミちゃんじゃね?」と言い出した。

そこで自分で言ったBも含め、俺たちはそこ言葉を聴いて凍りついた。
というよりも、その言葉を聴いた俺が真っ青な顔で動揺しているのを見て色々察したといった方が良いだろう。

Aが「おい、さっきの話マジなのかよ・・・」と言いつつ、ひとまずドアスコープで誰が来たのか確認してくると言って、足音を立てずに玄関へと向かい、暫らくすると戻ってきた。

そして俺たちに「すっげー可愛い子がニコニコしながらドアの前にいるんだけど・・・」と言ってきた。
その間も何度もチャイムが鳴らされている。

それを聞いてCが「お前マジなのかよ・・・何で後つけられてるんだよ・・・」と言ってきたが、そもそも俺にもなんで後をつける事ができたのかがわからない、。
俺は「ひとまずほんとにアケミちゃんかどうか自分の目で見てくる」といって、同じく足音を立てないように玄関に向かうと、ドアスコープで外を覗いてみた。

そこには困惑気味な顔をしたアケミちゃんがいた・・・。

これはかなりヤバイ。
てかなんでついてきているのかと、俺たちそんな仲ではなかっただろ?
ちょっと電車内で会話しただけだろ?理不尽すぎね?と思いながら、ひとまず部屋まで戻ると3人に間違いなくアケミちゃんである事を伝えた。
そして4人でこれからどうするかを相談した。

まず居留守作戦は使えない。
部屋の電気がついているし、さっきまで結構大きな声で話していたのだから、在宅なのはモロバレだ。

次にひとまず俺はクローゼットの中に隠れAが応対して、俺の事を聞かれてもそんなやつ知らない、何かの間違いだろうと、しらを切る作戦を考えたが、相手は文字通り「アレな人」な可能性があるからそれで納得するか未知数なうえに、凶悪な武器持ちだ、ドアを開けるのは危険すぎる。

そんな話をしていると、外からアケミちゃんが「○○(俺の名前)くーん、ここにいるよね?入っていくの見てたよー、何で逃げるの?酷いよ、ちゃんとせつめいしてよー」と声が聞こえてきた。

Aが「お前モロにつけられてんじゃねーか、てか自分の名前言ったのかよ!どうすんだよ!」と焦り気味に言ってきた。

前の駅で降りてここまでタクシーできたのにどうやって後をつけたのか?
色々疑問は残るが、今更そんな事を考えても仕方がない。

俺たちがそんな会話をひそひそ声でしていると、今度はドアのほうから『キィ!ギギギギギギギギ!キィ!ギギギギギギギギギギギギ!』と金属同士がこすり付けあうような、非常に不快な音がし始めた。

Aがまたドアの方に行き外をうかがって戻ってくると、「おいなんかやべーぞ、包丁でドアを引っかいてやがる・・・マジでヤバイ人じゃねーか!」と声を殺しなら言ってきた。

その間も「○○くーん」と俺を呼んだり「ちゃんと出てきてお話しようよ」と、行動と言動が全くかみ合わない事をやっている。

この騒ぎでお隣さんがキレてしまったのだろう、ドア越し「うるせーぞ!何時だとおもってる!」と怒鳴り声が聞こえてきた。

そして金属音もアケミちゃんの声も止まり一瞬の沈黙のあと、「うわっ!なんだこいつ!」という
声がしてその後にドアが激しくバタン!と閉まる音がした。

『キィ!ギギギギギギギギ!』

という音が鳴り響く。

何事が起きたのかと、隣の人は大丈夫なのかと、明らかに状況がどんどん悪化してきている。
俺たちはその後もあれこれと対策を考えたのだが、その場の思いつきの付け焼刃でどうにかなるとも思えず、どうすれば良いのかと考えていると、外からパトカーの回転灯の光が見えた。

サイレンの音などは聞こえなかったが、どうやら誰かが警察を呼んだらしい。
俺たちが助かったとほっとした瞬間、外から「待ちなさい!」という声の後に、誰かが駆け抜ける音がして、その後直ぐに静かになった。

すると今度はドアチャイムが鳴り、警察官が「大丈夫ですかー?」とドア越しに声をかけてきた。

どうやら助かったようだ・・・。
Aがドアを開け、俺たち全員が事情を話すと、どうもアケミちゃんは警官1人を突き飛ばすと、アパートの一番奥のほうまで駆けていき、フェンスをよじ登り逃げて行ったらしく、現在追跡中とのことだった。

俺は彼女がアケミという名前である事、俺たちと同じ大学の学生であることを伝え、ターゲットがどうやら俺である事から、暫らく俺のアパートの周囲を巡回してくれる事や、緊急時の連絡先等を仕えると帰って行った。

ちなみに、警察に通報したのは隣の人だったらしい。
隣の人が言うには、怒鳴りつけた途端にアケミちゃんが無言で中華包丁を振り回してきたので、慌ててドアを閉めて警察に通報したということで、特に怪我をしたとかそういう事ではないとの事だった。

実はこの後6月末頃にまた事件が起きたのだが、少し話が長くなりすぎたのと、時間も遅いので
続き次回・・・。

ちなみに、大学に該当する学生は在籍していなかったそうです。
というか、警察は結局身元の特定すらできませんでした。
それでは、長々とお付き合いありがとう御座いました。

※アケミ(後編)へ続く・・・。