高校時代、たまに肩をパシーンと叩いて横切ったりする変な奴が友人にいた。

周囲からはそういう奴だから・・・みたいに見られていたが、あるとき理由を聞いた。

俺「お前、いきなりひっぱたいたりするのって何なの?あれ結構いてぇぞ?」

友人「いや、俺、なんとなく霊感みたいなの見えるんだ。で、変なのが見えるとひっぱたいてやってるw」

そう言ってって笑いながら話してた。

嘘か本当かわからないけど、こっちはむしろ霊感のところに興味津々。
雑誌のムーとか流行ってたしw

俺「じゃぁ、今までで一番怖いと思った霊とかってある?」

彼は淡々と話始めた。

彼は数年前、中学時代に家族で旅行に行っていた。
その時見た湖が、写真ではよくある観光地だな~って感じだけど、実際には何倍も綺麗に見えたらしい。

うわ~すげぇ綺麗じゃん!

ひとしきり感動して、同時に「これなんかおかしいぞ・・・湖から目が離せなくなってるし」と思った。
金縛りとかじゃないけど、水面をずっと見ていたい、この湖をもっと知りたい・・・って心境になっていた。

結局、家族がもう行こうってことで他の場所への移動になったが、両親からは「ずっと見てたけどなんかあったの?」って心配されたらしい。
で、夜になってホテルに入る。
温泉につかって、豪華な夕飯食べて、ゲーセンで遊んで、寝たらしい。

そしたら、湖のほとりに立ってる夢を見た。
ただし、足元は湿地の様で、舗装もされていないし、観光地になるずっと前の風景のようだったらしい。

夢の中の風景は早送りみたいになっていて、あっという間に夜から朝、朝から夜を繰り返している。
そこに、力ない感じの狐が来て、最後に水を飲んで息絶える。
遺体はあっという間に腐り、腐葉土のようになり、長いのに短い冬を経て、そこから緑が芽生え、そして枯れていく・・・。
次の年には力ない熊が来て、最後に水を飲んで、やはり息絶える。
遺体が腐敗し酷い悪臭がして、そこで目が覚めたらしい。

不思議と悪意や嫌悪感は感じられないが、「何かやべぇな・・・これなんか変なもん拾ってきたかな?」と思ったらしい。

実は子供の頃から心霊現象には慣れていたらしく、彼は中学生の頃にはそんな感じで折り合いをつけていたらしい。
けど、よくある金縛りや人の気配とかではなく、何なのか意味がわからなかったので寝なおしたらしい。

彼曰く、悪意が無いのは無視するのが一番、らしいので。

また同じ夢を見た。
狐が息を引き取り、四季がめまぐるしく変わり、また熊が息絶え、その悪臭で目を覚ます。
起きる、寝る、夢を見る、また起きる・・・をそこから3、4回は繰り返したらしい。

それで、普通じゃないというのは理解した・・・けどこの状況がなんなのかが理解できない。
霊感や悪霊みたいな悪意は感じられない。
そこで、最後まで見てみようと思ったらしい。

四季が移り変わり、狐、熊が息を引き取り・・・熊の死体の悪臭にも耐え、雪に埋もれたそれから勇壮な芽吹き・・・。
その時、ふと理解したらしい。

「この水を飲んで、湖の一部となることで初めて湖のことが理解できるのか・・・それを促していたんだ・・・あぁ、自分が知りたかった湖のことってこのことなのか・・・この水を飲めば自分もこの一部になれる・・・」

しゃがみこんで両手で水をすくって口をつける・・・という瞬間に「ヤバイ!!」って目を覚ましたらしい。

全身鳥肌、汗びっしょりで目覚めて、その後は目を閉じて、「湖さん、湖の神様?何だか良くわからないけど、ごめんなさい!俺はまだあなたの一部にはなれません、まだ生きていたいです、勝手なことですけど許してください!!」って念じながら寝たら、気がついたら朝になっていたらしい。

で、彼の中でのとびっきりの怪談?を聞かせてもらって、何度も言うようだけど、その時の夢に悪意は感じられなかったらしい。

彼が言うには、悪霊、怨念、霊魂とかは個人の物で、そんな物は自然の力と比べれば全然だと。
大自然の意思?みたいな物は口では上手く説明できないけど、圧倒的に雄大で、しかも寛大なパワーで、それに触れたら、もう後は何されても、「隣の家の壁ドンうるせぇ!」くらいにしか感じられなくなるって言ってました。

話全体は、シリアスにやりつつ笑いも含めつつだったんだけど、最後に、「でも、たぶんあの時『まだ』って言っちゃったんだよな・・・もしかするとあそこで俺死ぬのかもな~」って、しみじみと言ってたのが印象的です。

高卒後、特に連絡とかもしてないけど、まだ生きてはいると思いますが。