今思うとくだらない話なんだが、当時は死ぬほど怖かった話。

5、6歳の夏の日の話だ。
近所に友達なんていなかった俺は家の近くで一人で遊ぶのが日課みたいになってた。
その日も地面の蟻を観察したり草むしったりして遊んでた。

それに遭遇したのは昼前のことだ。
家の中からする、“美味しそうな匂い”に心踊らせながら、壁に向かって石をポンポン投げて“早くできねーかな”って思ってた。

ふと壁の上らへんに違和感を感じて見ると、なんか壁の模様とは違う、500円玉より一回り大きいくらいの、黒のシミに気付いた。

“変だなー”って思って立ち上がってまじまじ見るとさ、そいつはひし形みたいな形してて、物欲しそうにパクパク動いてんだよ。

イメージで言うと金魚の口みたいな感じ?

俺さ、こういう変な出来事に遭遇するのはじめてで、こいつのことを誰かに伝えたいって思って、周りを見回したんだけど、一人で遊んでたわけだから誰もいないわけね。

仕方ないから“俺一人で正体を暴いて皆に自慢してやろう!”って思ってさ。
まず足元の石拾っていくつか投げたんだよ。
何個かは外れたけど、一個だけそいつに当たってさ。
石が当たるとそいつはパクン、って口を閉じてからしばらくは閉じたままだったけど、またパクパクしはじめた。
その時点で俺は相当ビビってた。
石はどこに行ったんだろう、こいつはなんなんだろうって。

けどさ、子供特有の好奇心っつーのかな・・・今度はもっと大きいもんく喰わせてやろうって思って、キョロキョロ見回したんだよ。

そしたら二・三歩歩いた先に枝があった。

あれにしよう!

そう思ってそれ拾いに行きかけたわけね。
でも、不思議と壁のやつから目を離したら消える気がして、俺はそれは嫌だなって思ったから、しばらく悩んだあと、意を決して自分の指を突っ込んでみようと思ってそいつと指を見比べて入れることにした。

そーっとそぉーっとにじり寄りながら指先をそいつに近づける。

あと数センチ、ってとこで狙ったようにカーチャンの「めしじゃー!」っていう声が聞こえて、俺は驚いてそいつから目を離した。

やばい!

そう思って慌ててそいつを探したけど、もういなかった。
触って確かめて見てもただの壁。
その後はがっかりしたようなホッとしなような気持ちでカーチャンのとこに行ったよ。

飯食いながら、そいつのこと思い返したけどさ、もし俺がそいつの口に指突っ込んでたら、もうここにはいなかったんじゃねーかなって思ってゾッとした。

今でもたまーにそいつのことを思い出してはそいつがいた壁を睨んでみるけど、残念なことにあの日以来見てない。