俺がまだ小学校に入学したての頃の話。
初めての通学路を家が近かった友達(男)と一緒に、まるで別な世界を探検するかのように歩いていた。

ふと、ある家が目にとまった。
道路に面したその民家は赤いトタン屋根、小さな庭もチラッと見えるが手入れはされてなく、雑草が茂っていた。
まさにボロ家、といった感じだった。

何が目にとまったかというと、その家の窓のデカさ。
今思えば俺が小学生で低身長だったから、大きく見えたのかもしれないが、ついつい、俺と友達はその窓から家の中を覗き込んでしまった。

窓から室内をそっと覗いてみると、白髪がボッサボサのじいさんが、ズームイン(朝の番組で今はZIP)を見てたんだ。

部屋の中は殺伐としていて、テレビだけが部屋にズンと場所を取っていて、さらにデカい窓からはズームイン丸見え。
画面の左端のデジタル時計が、当時、腕時計なんて持ってなかった俺達にとってどれほど大事なものだったか。
丸見えデジタル時計のおかげで、俺は時刻を把握して、遅刻しそうな時は急ぐことができた。

そんなこんなで、俺はそのボロ家のじいさんを「デジタルじいさん」と呼ぶようになった。

丸見えとは言え、他人の家を覗き見するのは良くない・・・なんて当時は考えもしなかった。
でもやっぱり少しは罪悪感みたいなモノがあったのか、俺はあからさまな覗き見じゃなくて、あの大きな窓を横切るとき、目線だけテレビの方に向けて、時刻を確認してた。
しかも都合のいいことに、テレビは毎日ついていた。

そしてある日、たぶん小5の時。
とうとうじいさんと目が合った。
というか、今まで目が合わなかったのが奇跡だったと思う。
しばらく体が硬直した。

バレた!
どうしよう!

そういう考えが頭をグルグルして、俺はとっさにその場から逃げ出してしまった。

それから、俺は小学校を卒業するまで、じいさんの家を極力覗き見しないようにした。
とは言っても、雨で傘をさしてる日なんかは、バレないようにチラ見していたけど・・・それでも相変わらず、テレビはついていた。
朝見てる番組はずっとズームインだった。
帰る頃にもテレビはついていて、その時はじいさんと目を合わせないように、なるべく下を向いて早足で歩いた。

もともと人通りの少ない狭い道だったから、じいさんの家を横切るときは顔を見られないようにうまく避けて通るのに必死だった。
たぶん、それくらい当時の俺は「目が合った」ことにトラウマを感じていたんだと思う。

そして、俺が小学校を卒業した後の休みの期間、俺は別の友達の家に行くために、じいさんの家のある道を通った。

そしたら、あの大きな窓が、大きなベニヤ板で完全にふさがれてるんだよ。
俺はハッとした。

まさか、じいさんがこれ以上覗かれない為に・・・?

そうと思った。
これは完全に俺が原因だ・・・と感じたね。

それからじいさんの家の窓は、ふさがれたままだった。

一週間ほど後に、俺のばあちゃんに聞いてみたんだ。
「なんであの家は窓がふさがれてるの?」って、わざとらしく。
そしたら、ばあちゃんはいきなり黙り込んだ。

変な空気になったけど、俺はしつこく聞いた。
そしたらやっとばあちゃんが、口を開いた。

ばあちゃん:「あの家のじいさん、5、6年前に奥さん亡くしてから、一人暮らしだったのよ。息子はいないみたいで、ずっと一人であの家に住んでたの。だけどここ数年、じいさんの様子がおかしくなったんだって。アンタも窓から見たことあるでしょ?あのじいさん、奥さん亡くなってからずっとテレビ見てるの。1日中よ。1日中。それが毎日だからね・・・さすがに皆おかしいと思ったんだけどねぇ・・あの人もともと近所付き合いの無い人で、皆話しかけづらいから、見てみぬフリしてたわけ。」

ばあちゃんは更に続けた。

ばあちゃん:「そしたら最近よ。あのじいさん、死んでたんだって。居間で。テレビを見入るように目をパッと開いて。最初に部屋に入った町会長が、腰を抜かしたってね。ひどい匂いだったそうよ。食べ物も、何を食べてたのかわからないって。居間から出て料理かなんかした様子もなかったみたい。老衰かなんかで死んだらしいんだけど、詳しいことは分からないよ。でも、死後2週間は経ってたって。あと、あの板は、町会長がつけたんだよ。これ以上、人が死んでた部屋を晒すわけにはいかないってね。」

俺はこの体験を、一生忘れない。

心霊とかではないけど、何か凄く気持ち悪い気分というか、あのじいさんの顔が今でも脳裏に残ってる。