見方によっちゃ、ほのぼのなのかもしれないが、個人的には怖かったこと。

俺の家でネズミが出没しててさ、うるさいし食い物あらされるしで散々だったんだ。
ネズミ捕りとかも仕掛けてたんだが、いつしかそれもきかなくなった。

これからはネズミと共存する道を選ぶぜと諦めて2ヶ月くらい経った頃、隣の家でちょっとした集まりがあって、そこに出席してたんだが、俺はそいつのことが心底嫌いだった。
ちょっと顔を出して帰るつもりだったんだが、何か帰りづらい雰囲気で、渋々その辺でいらいらしてたんだ。

そんな時、ふと見つけたゴキブリホイホイ。
なんというか、魔がさして、ゴキを救出したw

その日を境に家から段々とネズミの気配が消えていく。

するとある晩、知らない女が訪ねてきたんだ。
ちょっとガングロ系で、長い黒髪がツヤツヤしてた。
網ストに包まれた細い脚が、黒い超ミニスカからスラっと伸びてるのについ目が釘付けになっちまった。
親戚を訪ねてきたが場所が解らなくて途方に暮れている、と言う女をひとまず家に上げた。

黒いエナメルコートを羽織っているとはいえ、外は勿論玄関先でも寒いからね。
結局親戚の家は解らず、女は帰っていったんだが、翌日またやってきたんだ。
お世話になったお礼だ、って菓子折り持ってね。

それ以来あれこれ理由をつけて度々俺の家にやってきては、何かと世話を焼いてくれる。
いわゆるカレカノ状態になるまで一週間もかからなかったかな。
大家族の中で暮らしてて、あまりいい境遇にないらしい彼女とはそのまま同棲同然の暮らしになったんだ。
ネズミもめっきり見かけなくなったし、邪魔なネズミ捕りとか諸々片付けた。

彼女はたまに仕事部屋と名づけた自室にこもるんだ。

「絶対に覗かないで」と念を押した上でね。
俺にも見せちゃいけない書類の作成とか色々あるらしい。
俺も仕事の重要さってのは分かるから、邪魔しないようにしてた。

それからしばらくして、隣のいけ好かない奴が行方不明になったって話を聞いたんだ。
俺は喜び半分、驚き半分で彼女にそれを知らせに行ったんだ。
約束を忘れて仕事部屋のドアを開け放った俺は我が目を疑った。
次の瞬間猛烈な吐き気に襲われた。

仕事部屋の中は肉の腐った臭いに溢れてて、壁中に茶褐色の染みが飛び散ってた。
床に転々としてるのは干からびたネズミの脚や、黄色くなった骨。
でもそれよりも俺の目に飛び込んできたのは、部屋の真ん中の、鮮烈な赤色と重厚な黒色だった。

血を噴き出しながらグラグラと揺れているのは隣家の奴だ。
それにのしかかって蠢いているのは、巨大な、黒い・・・。

揺れていた触角がピタリと止まった・・・。

ソレはゆっくりと俺の方を見た。
隣家の奴は、「ああ、こいつはもう駄目だ」と思った。
内臓があらかた無くなってて、赤黒い空洞がポッカリと口を開けてたからな。

ソレが蚊の鳴くような声でしゃべった。

女「覗いてはいけないと言ったのに」

俺は尻餅をついて後退った。
失禁してた。
ソレがこっちに近づいてくる。

俺の前に来た時には、愛しい彼女の姿になってた。
彼女は哀しそうに微笑んで言ったよ。

女「これがせめてもの恩返し。これでもうあなたが嫌いなやつはいなくなったから」

彼女はそのまま俺の横を通って部屋から出て行った。
玄関ドアの閉まる音を聞きながら、俺は気を失った。

気がついた時、部屋の中は嘘みたいに綺麗になってた。
悪臭も染みも何一つ、そう・・・死体もなかった。
夢だったのか、と思ったが、隣家の奴は行方不明のまま、彼女も姿を消してた。

そして昨日、差出人不明の大きな荷物が届いたんだ。
恐る恐る開けてみると、そこには大きな木箱と一通の手紙が入ってた。

『家族の中にあっては食べられてしまうからあなたに預けます』

そう書かれた手紙。
木箱の中には一抱えもあるような、茶褐色の塊が入っていた。
俺はそれをそっと取り出してクッションの上に乗せたよ。

そして思った。
また彼女に会える。
きっと迎えにやってくる。
だから「早く生まれておいで」