私は今沖縄の離島に住んでいるのですが、そこでの釣りの師匠がいわゆる見える人で、色々と興味深い話を聞かせてくれます。
今日は最近聞いた話の中でも特に自分が怖いと思ったものをひとつ。

その日、師匠は真夜中に山にヤシガニを取りに出かけたそうです。
私たちが住んでいる島は人が住む集落よりも山などの自然がほとんどの面積を占めるようなところで、集落を少し離れれば民家の光は全く届きません。
しかも、師匠が入った山というのもちゃんと山道があるようなところではなく、木が鬱蒼と茂る整備も何もされていない本当の山。
師匠は真っ暗な山の中草木をかき分けながら道なき道を自分が持ってきた懐中電灯の灯りだけを頼りに進んで行ったそうです。

普通の人なら夜中に一人で山など怖くてとてもに入れたものではないと思いますが、そこは小さいころからこの島の自然に慣れ親しんできた師匠。
夜の不気味な山の雰囲気など物ともせず、ずんずん進んで30分もしない内に目指すヤシガニポイントに辿り着きました。

そして更にその場所で一時間ほどねばり目的のヤシガニをゲット。
そのころにはもう時間は夜の12時を回っていたそうです。

さて帰るかとヤシガニの入った袋を担ぎ元来た道を下って行こうとする師匠。

でもどうもおかしい・・・。

ここは何度か来たことのあるところで、迷うはずがないのに、ふと気付くと行こうとした場所とは違う場所に来ているのです。

師匠:「これは迷わされているな」

師匠は思いました。
立ち止まり深呼吸をし、気をさっきよりも引き締めて再び山を下り始めます。

少しすると背後に何やら気配を感じるようになりました。
ついて来ている・・・?

背後の気配はひとつ、ふたつ・・・だんだん数を増やしていきます。
師匠は後ろは振り返りはしませんでしたが、その気配の正体が何であるかが解りました。

少し昔の着物を着た杖をついた老人、小さな子供、若い女性・・・。

老若男女実に様々な人たちが、師匠の後ろをずらずらと付いてきていました。

師匠:「ついて来るなっ!!!」

師匠は後ろの者たちに向かって怒鳴り付けました。
ついてくる霊というのは普段からよくいるそうですが、大体はこうやって一喝すると逃げて行きもう姿を現さないそうです。

しかしその日は違いました・・・。
いくら怒鳴っても全く臆する様子もなくぴったりとついてくる・・・。
かなりタチが悪い部類の輩の様です。

こんなやつらは放って置くと必ず悪さをしてきます。

このままではまずい、と思った師匠はまた立ち止まり、木の枝を折ると自分の肩から後ろに向かって枝を数回振り下ろしました。

簡単ですがこの島に古くから伝わる魔除けの方法のひとつです。

するとあんなに怒鳴っても反応がなかった後ろの連中が、バッと一気に散っていくのが解りました。
こういう昔から伝わって来ていることというのは、やっぱり効果があるのです。

師匠はホッと胸を撫で下ろし、また山を下りはじめました。

しかし・・・。
またひとり、ふたり・・・。

散って行ったもの達がまた戻ってきて後ろをついてくる。
これは本当にタチが悪い。

師匠はまた枝を振りました。
そのときは一旦離れるのに、またしばらくすると戻って来て後ろをついてくるのです。

それを何回繰り返したでしょう・・・。
恐怖と緊張で顔はこわばり、冷や汗で服はもうビショビショになっていました。

それでも道だけは絶対に迷わないと気を引き締め、通常30分のところを一時間以上掛かってしまいましたが、何とか車を停めている山道へ辿りつくことができました。

枝をふる離れるを繰り返すうち、戻ってついてくる気配は少しづつ減っていたのですが、それでもこの山道まで付いて来たしつこい奴もいました。

こいつらをこれ以上付いて来させたら大変なことになると思った師匠は、道に落ちている石やら枝から思いっきりそいつらに向かい投げつけ「ついて来るな帰れ!!」と何度も怒鳴り、やっとそいつらが消えると一目散に車に乗って家へ帰ったそうです。

「やっかいな思いをしたがヤシガニニはしっかり持って帰ってきた」と笑って私に話してくれました

これだけでも私は十分怖かったのですが、一番怖いと思ったのは「いったい全部で何人付いて来てたんですか?」と聞いたとき、師匠が「七人」といったこと。

この板のみなさんならきっとご存知とは思いますが、私はそれを聞きすぐ七人ミサキが頭に浮かびました。

七人ミサキは本島の伝承で私の知る限り沖縄に似たような話はないし、当然師匠も七人ミサキのことは知りませんでした。

でもやはり人の恨み怨念といった悪いものは、場所はどこであろうと似たような形でこの世に姿を現すのかもしれないですね。

もし師匠が魔除けの方法を知らなかったりこのような気の強い人でなかったら、もしかしたら引っ張られて七人の仲間にさせられていたかもと怖いです。

以上長々と失礼いたしました。