兄貴の話。

兄が幼稚園に上がる前の頃、夜寝ていると、おみこしを担ぐ声やお神楽が聞こえてきたそうだ。
その声は遠くから段々近付いてくる。
家の前の道をじょじょに進んでいるらしく、次第にその声は大きくなっていく。
そして家の前にその行列が着たと思った瞬間、その声は消える。
そんなことが幾晩か繰り返された。

そしてある晩に、おみこしの声が止まったあと、どうも部屋の中に気配がする。
立ち上がって、その気配のするほうに近づいてみると、小さな箪笥の上に飾ってあるコケシからその声が小さな音で聞こえてきたそうだ。

そんな兄貴も実家を出てとっくに結婚して娘もできた。
ゴールデンウィークに帰省してきたとき、俺も姪にはプリキュアの名前を覚えさせられた。
兄一家が翌日帰る晩、兄とふたりで酒を飲んでいたら、兄が「おまえさ、お祭の声の話、覚えてる?」と。

兄「一昨日さ、あいつ(娘)、聞こえたって言うのよ。わっしょい、わっしょいって。昔俺が聞いたみたいに、お神輿の掛け声と笛や太鼓の音が、近付いてきて家の前でぴたって止んだって。『今日お祭じゃないの?』って言うから何事かと思ったわ」

兄貴が焦ったり怖がった風ではなく、むしろ楽しそうに話しているのが不気味だった。