私が学生時代に経験した話です。

当時私は神奈川県内のとある大学へ通ってたんだけど、別の大学に移ることになって新しいアパートを探しに行くことになりました。
不動産屋さんに紹介されたのは大体6万5千円前後の物件だったんだけど、一つだけ4万3000円ってのがあったんで「ここ見せてください」って、不動産屋のお兄さんと車に乗って“その”アパートのある場所へ向かいました。

不動産屋「ここはT駅から車で15分くらいで、大学までは40分くらいかかるから大学へはバスで通うようになりますね」

川の流れる音。
未舗装の道路。
林に包まれるようにしてひっそりと佇むアパート。
トタン屋根の長屋作りで築30年以上は経っているであろう昭和の香りがプンプン漂う、それは廃墟といわれてもおかしくないほどのボロさ・・・。

正直嫌だなって思いました。

建物だけじゃなくて、道を挟んだ反対側にくたびれた平屋があったんだけど、そこにおばあさんがいて、俺を乗せた車がアパートの前に止まるまでそのおばあさんが興味深げにジーッとこっちを見ていたから気味悪くてね・・・。

不動産屋「今、カギをあけますね」

そういってお兄さんがカギを空けている間も、後ろから刺すような視線を感じていたのでさりげなく後ろを振り向いてみるとやはりおばあさんが俺を見てる。

不動産屋「じゃあどうぞ」

既に乗り気じゃなかったんだけど、お兄さんに言われて中に入ると、中は外見からは想像もつかない程綺麗でした。

不動産屋「老朽化が進んでいたので最近リフォームしたばかりなんですよ」

今でも覚えてるけど、ドアを開けるとすぐ右手側がトイレ。
正面がバスで左側が3畳くらいの台所。
台所の正面が8畳の和室。
和室の右手隣が10畳の和室。

立地条件とか考えてもこれで4万円台はさすがにおかしいのでは?というか、奥の和室から漂うこの何とも言えない雰囲気は何だろうと、私はこの異様な空気に耐えられず、外に出てしまいました。

外に出て正面の家を何気なく見るとまだあのおばあさんがいる・・・。
おばあさんは何をするでもなくソワソワとしてたんだけど、俺に気がつくとお兄さんがいないことを確認したのか、急に身振り手振りで何かを伝えてきました。

人差し指でこちらを何回か指す。
顔の前で手を振る。
右手で首を押さえる。

おばあさんはこの仕草をするとそそくさと家の中に入っていきました。
血の気が引いた俺は当然別の物件を紹介してもらった訳でして・・・。

当時、今よりも行動力があった俺はこの数ヵ月後に真相が知りたくて、おばあさんに会いに行きました。
もちろん菓子折りを持って。

心霊とかじゃないけど、とても怖かった体験です。
今ではいい思い出だなと思ってます。