私の友人の話です。

友人はおかしなメールが届いているのに気付いた。
それは、こんな文章で始まっていた。

「突然のメール、さぞかし驚かれたことと思います。単刀直入に申し上げますが、やはり私はあなたとはお付き合い出来ません。いえ、むしろお付き合いしたいくらいなのですが、私とあなたとでは歳が22も離れており、あなたの親御さんがまず反対すると思われます」

全く心当たりがない内容・・・。

間違いメールと判断したが、少し面白く思って読んでみた。
どうやら差出人の男性に、22歳も年下の女性が片思いをしており、「私もあなたの気持ちには以前から気がついていました」が、「年齢差はもちろんですが、私は現在無職」で、「交際するべきではないと結論を出し」と、書かれていた。

友人「本当ならおっさん凄いな、でもおっさんの勘違いだったら間抜けなメールを、それも間違って他人に出しちゃったってことだな・・・」と思って友人は送信者の欄を見た。

なぜかそれは間違いなく友人のアドレスだった。
首を傾げる。
しかし特に気にはならない。
そのまま放置した。

次の日。
郵便受けにDMが入っていた。
見ると住所は確かに友人宛だが、宛名が『オオオカタダタカ』になっている。
友人の名前ではない。

このアパートに引っ越して半年経つ。
今頃前の住人宛に手紙が届くのもおかしい。
しかし、きっと前の住人宛だろうと思い込み、2階に住んでいる大家に手渡す。
大家は、「あら、確か前の人は伊藤さんだったはず・・・でも何人も代わってるし、大岡さんて方もいたような・・・とりあえず、私が郵便局に渡しときますね」と受け取った。

友人は4階の自分の部屋に戻り考えた。

オオオカタダタカ。
漢字で見たらなんとも思わなかったかもしれないが、カタカナだと奇妙な名前だ。

そんなことも忘れた一週間後の夕方。
友人はアパートに帰ってきたが、ふと違和感を感じて玄関に入る前に4階の自分の部屋の窓を見上げた。

誰かが立っていた。

カーテンを開け放した窓際に、誰かが立って、放心したように遠くを眺めている。
部屋の中が薄暗くてよく見えないが、中年の男のようだ。
緑色のコートを着ている。

友人は凍り付いて、その場で携帯から110番する。
5分ほどで警察が来てくれたが、その頃には男の影は消えていた。

警察2人と友人は一緒に、部屋に入った。
隈なく調べるが、どこにも男はいない。
鍵も全てかかっている。

「またなにかあれば連絡下さい」と警察は去っていったが、「気のせいでしょ」と言いたげな態度だった。

友人はすぐに大家の部屋をノックする。
大家に、「前の住人がまだ鍵持ってて、今日勝手に入ったんじゃないんですか」と怒りながら尋ねるが、大家は戸惑った表情で、「いえ、鍵はつけかえてますし、そんなはずは・・・」と言葉を濁すので、友人は大家が鍵の付け替えを怠ったのを誤魔化してると思い、憤りながら自分の部屋に戻るとチェーンをかけた。

そして洗面所へ行った時、気付いた。

昨日の夜から使っていない、バスマットとバスタオルがずぶ濡れだった。
友人は鞄を持って、そのまま部屋を飛び出した。

友達の家に泊まった友人は、翌日アパートに戻ってみた。
気味が悪いので引っ越したいが、とりあえず引っ越し先を探し、荷物もまとめなくてはいけない。

ふと郵便受を見ると、またDMが入っている。

オオオカタダタカ宛。

「・・・」

そのDMを持ったまま、部屋に戻る。

ざっと中を見回す。
クローゼットや押入れ、トイレ、浴室を見てまわる。

誰もいない。
DMはフジコーポレーションと印字されている。
友人は開封してみた。

中に入っていたのは、8枚の写真だった。

両手のアップ。
両足のアップ。
膝のアップ。
局部のアップ。
腹のアップ。
胸のアップ。
唇のアップ。
目のアップ。

中年の男の体の一部をアップで写したものだった。
友人はハッとして、メールのチェックをする。
新しいメールが一つ。
たった一行。

「勝手に他人宛の手紙を開けるな」