深夜、コンビニで酒とつまみを買おうと、自宅のマンションの部屋からエレベーターで一階に降りようとしたら、エレベーターの中に長い黒髪の赤い服の女が俺に背を向いて立っていた。
それも鮮やかな真紅の服で黒髪も深い色だった。
コントラストがなんとも言えない、そして微妙だにしない。

俺は深夜に女性一人でエレベーターに乗ってることに始め驚いたが、その異様な雰囲気とその場の空気に不快感を覚え速く一階に出たかった。
気をまぎらわすため、好きなテレビ番組を思い出していたら気付いてはいけないことに気づいてしまった。
何気に目線を女の足元にやると、俺は目をギョッとして心臓に冷水が一気に流れこんだ。

靴がこちらを向いていた。
つまり、俺に背を向けていたわけでなく、ずっとこちらを向いていた。
リングの貞子のように長い髪の毛を顔から胸に垂らしてこちらに向いていた。

冗談じゃない、こんな所にいられるかと思い3階に飛び出すように降りた。
そのまま、近くのコンビニへ駆け込んだ。
夜に虫が光に群がる気持ちが分かったような気がした。

ふと、冷静に考えてさっきの出来事を考えると、変なところに思考がいった。
両腕は、女の異様に気づく前は両腕をへその下の辺りで結んでいるのかと思ったが、実際はお尻の辺りで両腕を結んでいた・・・こちらを向きながら・・・。

もしかして、俺を凝視しながら背後に隠した刃物とかで殺してやろうかと思っていたのだろうか?
全身に鳥肌がたち、寒気と同時に一瞬体が麻痺した。

俺は幽霊を信じない達なので、精神異常の女が夜中フラフラしているのかと思った。

つまみとか買える気分じゃない。
まだマンションの中をうろついているのかもしれない・・・。

遠巻きマンションの外から様子を見ようと思い、気持ちを整えてからコンビニを出た。
マンションの前まで来たら・・・女が外に出ていた。

長い髪の毛を顔から垂らしながら、かなりの猫背の股を開いた。
ガニマタの姿勢でなにかを探す素振りをしていた。
もしかして俺を探してるのか?目の前の風景に血の気が引いて、石の棒のようにぼっと突っ立ってて体が動かない。

マンションの無機質な照明の光に照らされ、それは激しく頭を揺らしながら聞き取れない笑い声のような声を出していた。
腕の部分は始め暗くてはっきり見えなかったが、照明よって照らしだされた。

錆びた出刃包丁を持っている。

これはだめだ。
はやく警察に電話しないとと思ってる最中、女と目が合った。
エレベーターでは顔が見えなかったが、見開いた狂って笑ってる目がはっきり見えた。

張りつめた弦が切れるように俺はマンションを背にして逃げた。
まるでいつもの風景が異界に迷いこんだかのように変化している雰囲気がした。

暗い夜道を必死になってもがきながら逃げた。
後ろから女が大股で頭を揺らしながら追いかけてくる。

とりあえず、さっきのコンビニに逃げよう・・・。
店員に保護してもらって警察に電話してもらおう・・・。

そう思いながらも必死に走った。
女は大股で出刃包丁を振りかざしながら追ってきたがさほど早くない。
これなら振り切れられる!
コンビニは、自宅から十分くらいのところにある。
もうすぐだ!

心の中に少しだけの安堵が芽生えたが、後ろから気持ち悪い笑い声が耳障りだった。
そして、おかしなことに気づくのにそう時間はかからなかった。

走ってきた道や建物は認知出来、あとどれくらいでコンビニに着くのかは分かるけれども、うまい言い方ができないが走っているのに止まっている感じがした。

もうコンビニに着いてもいいはずなのに絶対おかしい・・・。

不安がどんよりと体を包むなか、後ろを振り向くとそんなに早くないのに笑い声をあげた女がさっきより近くに来ている。
全身を針で刺されたような悪寒に包まれ、死んでしまうという恐怖が支配した。

顔がくしゃくしゃになって周り風景が目に入らない。
黒い霧のなかを走っているようだ。

笑う女が近づくごとに視野が狭くなる。
恐怖で自分が今走っていることもわからなくなる。
どんよりとした真夜中の空気と一体化した気分だった。

もう後ろを見たくない!
振り向くと目と鼻の先にあいつの顔があったら俺はどうにかなりそうだ。
笑い声は近づいてきて、俺の耳まで息がかかるまで来た。
俺は目を瞑り、夢ならさめてくれ、頼むと祈った。

次の瞬間、俺は横転した。
やつに押されたのか、バランスを崩してこけたのかはわからない。
尻をついて前を見るとその女がこちらを見ていた。

女は、長い髪の間から口を覗かせ狂った目を輝かせてニタニタと笑っていた。
出刃包丁を手首で回しながら俺に顔を近づけてくる。
放心状態の中、俺は直感で女の顔をはっきり見てはいけないことはわかり目を強く瞑る。

女は、指で目を開かそうとする。
そして俺は気絶した。
次の日、コンビニの近くで倒れていたところを通行人の人が起こしてくれた。

俺はすぐにそのマンションから引っ越しした。
これで終わりではないような気がする。
いつあの女に出くわすか、脅える毎日だ。