大抵の人はそうだと思うのだが、俺は通勤にはいつも同じ道を通っている。
その見慣れたいつもの道で、2年前に体験た話を在りのままにここに書こうと思う。

その日、俺は会社を出て帰路に付いた。
時間は夜の8時過ぎくらいだったろうか。
いつものように地下道を通ってその先にある駐輪場へ行くのだが、長い地下道を歩いていると、少し先に人影が見えた。

この地下道はあまり人通りが多くないのだが、それでも人は通るしそれだけなら特に珍しいことは無い。
ただ、そいつは明らかに普通とは違っていた。

見た目はどこにでもいそうなただの女子高生。
だが、ようすが明らかに変だ。
壁を向いて少し俯きながら、ストラップだらけの携帯を弄っている。
そして、時々何かブツブツと独り言を喋っている。

うわ・・・これなんかヤバイ人なんじゃないか?

俺は直感的にそう思った。
他にも何人か通行人がいるのだが、皆そいつのことをガン無視している所を見ると、皆そう思っているのだろう。

俺は他の人達と同じように、とにかく気付かない振りをしてそいつの横を通り過ぎた。
そいつを通り過ぎてどれくらい歩いた時だろうか、俺の携帯にメールが着信した。

何気にポケットから携帯を取り出し差出人を見ると、見たことの無いアドレスだ。
俺は怪訝に思いながら本文を見た。

「何で無視すんの?」

書かれていたのはたったこれだけ。

意味が解らず「はぁ?」と思った俺は、どうせチェーンメールの類なんだろうと思いそのまま携帯をポケットに戻そうとした。
するとまたメールが来た。
アドレスはさっきと同じ。

「シカトしてんじゃねーよ、こっち見ろよ」

これだけしか書かれていない。

この時になって俺はふとある疑念を感じたメールしてきてるの、さっきのやつか・・・?
いやいや、ありえねーだろ、あんなやつ俺は知らねーぞ、なんであいつが俺のメルアドしってるんだよ、おかしいだろ・・・。
でも、じゃあこのメールはなんだ?ただの偶然か?そっちの方が不自然じゃないか?

俺は心の中で自問自答した。
そして、「ありえない」そう思いながら後ろを振り向いた。
うわ・・・。

予感は的中していた。
さっきの女子高生が携帯片手にこっちを向いている。
薄暗い地下道の蛍光灯に照らされ、少し俯いているので顔や表情などはわからないが・・・。

そして、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
一瞬ひるんだ俺だが、ふと冷静になった。

色々ありえない状況だけど、相手はただの女子高生だろ?
こっちが強く注意すればいいだけだろ、アドレスの件もちょっと問い詰めてやろう・・・。

そう思った俺だが、近付いてくるやつを見て全力で逃げ出した。
あることに気付いたからだ。

まず、今まで気付かなかったがやつは右手に携帯を、左手に血糊ベッタリの大きなコンクリート片を握り締めている。
そしてそれ以上に異様なのがそいつの喋り方だ。

まるで音声の逆回転のように変な抑揚の声でブツブツと何かを喋りながら、足元はゆっくり歩いているはずなのに凄い速度でこちらに向かってくる。
明らかに脚の動きと実際の速度が合っていない。

俺は一瞬で血の気が引いた。

なんだあれは・・・。
おかしいだろ、ありえないだろ、ありえない・・・ありえない・・・ありえない・・・。

俺はパニックになりながら全力で地下道の出口へと駆け出した。
階段を駆け上がり、もう少しで出口というとき、俺はふと後ろを振り向いた。

すると、目の前にやつの顔があった。
さっきも書いたように、顔も服装もどこにでもいそうな普通の女子高生だ、だが、やつの顔は明らかに狂気と言える表情だった、言葉ではまるで説明できないが・・・。

俺が一瞬ひるむと、やつは俺に向かって血まみれのコンクリート片を振り下ろしてきた。

「うわあああああああああああああああああ」

俺は叫び声を上げながら地下道の外へと倒れこんだ。

地面に倒れこみ腕と背中に強い衝撃を受けた俺はしばらく起き上がれなかった。
が、次に来るはずの致命傷になるであろうコンクリート片の一撃がこない。

えっ?あれ?どうなんてんだ・・・。

ふと俺が目を開けて見上げると、そこには何もいなかった。
数人の人が「大丈夫ですか?」と手を差し伸べてくる。

俺は呆然として辺りを見回したが、ヤツはいない・・・。
起き上がらせてもらい、まだ混乱している俺はふと地下道の方を見下ろした。

階段の一番下でやつがこちらを見上げている・・・。
俺は「あの・・・そこの・・・」と声にならない声でやつのいるほうを周囲の人に指差したが、どうやら誰もヤツが見えていないらしく、「大丈夫ですか?救急車呼びますか?」と心配された。

俺は混乱し更に周囲の空気が痛々しく感じ、「大丈夫です、大丈夫ですから!」と言いながらその場を逃げ出した。

翌日、俺は会社を休んで朝一で携帯を買い替えメルアドも変更した。
そして、あの日から今まで二度とあの地下道は通っていない。

以上です。