あれは今から5年くらい前の話だ。
今日は社会人になってからの恐怖体験を話そうと思う。
田舎には田舎の、都会には都会の怖さってもんがある。
これはその顕著な例だったと思う。

俺は某ゲーム会社で働いている。
通勤にはY浜線を使っていたが、これが結構「飛び込む」ことで有名な路線だ。
しかし俺自身は幸運にもそれらに遭遇することはなかった。
この日までは・・・。

その日はいつものようにお昼前に起きて電車に乗った。
俺の会社はフレックスなので何時に出勤してもいいんだ。
駅に着くとちょうど電車がきた。
時計を見るとお昼の12時40分だった。
お~空いてる空いてる。
電車には誰も乗っていなかった。
いつものようにi-Podで音楽を聴き始める。

朝はJAZZと決めている。
鼻歌まじりで外の風景を眺めていたが、何か違和感がある。
天気は快晴。
春先で穏やかな日差しに包まれている。
しかし動感がない。
というか止まってる1枚の写真を見ている感じだった。
と、そのとき電車が駅を通り過ぎた。

え?

この電車は各駅停車だ。
なんで通り過ぎたんだ?俺の最寄り駅は小さいので各駅停車しか止まらない。
それが他の駅を通り過ぎることなどあり得ないのだ。
おかしいな、運転手が間違えたのか?よく考えたら乗ってから車内アナウンスもなかった気がした。
俺はキョロキョロ見回したが電車は普通に走っている。
少し不安になったが、ほどなく次の駅に電車は停まった。

プッシューーー・・・ッバタンコツコツコツ・・・。

扉が開き後の車両に人が乗ってきた音がした。
俺は思い過ごしかと安心した。
そして電車は次の駅でも停車した。
結構大きな駅だ。
しかしおかしなことに扉が開いても誰も乗ってくる気配がない。
ホームには結構な数の人が並んで立っている。

ん?なんでみんな乗ってこないんだ?

おかしなことに皆、電車が来る方向を見ている。
まるで早く電車が来ないかな、といった表情だ。
いやいや、来てるじゃん。
みんな早く乗ろうよ。
・・・と思っていると誰かが同じ車両に乗ってきた。
うん、そうだよね。
みんなも早く乗ればいいのに。
しかし結局、同じ車両に乗ったのは一人だけで電車は動き始めた。

この駅で降りとけばよかった・・・。

多少の違和感はあったが、あまり気にもせず気を取り直して音楽を聴いていた。
しばらくぼんやりしていたが、ふと目線を右方向に移すと視界にさっき乗ってきた人が映った。
女子高生かな?黒い制服をきた女の子だった。
無言で俯いている。
床には大きなバッグを置いているようだった。

あんなに大きな荷物じゃ大変だな、などと思って目線を戻し外を見ていた。

ボトッ・・・。

何か音がした。
ん?何の音だ?俺はキョロキョロ見回した。
特に異常はない。
気のせいかと思い視線を女子高生に向けた。
あれ?心なしか彼女の荷物が大きくなっている気がした。
おかしいな、荷物あんなに大きかったっけ。
しばらくボーッと見ていたが何か違和感がある。
しばらくしてその理由がわかった。

瞬間、全身の毛が逆立った。

俺の人生でこの時ほどヤバイと思ったことはなかった。
彼女の大きな荷物だと思っていたものは、血だった。
よく見ると右足が切断されていて床に転がっている。
どす黒い血がじっとりと流れ出して徐々に広がっているのだ。
黒い制服というのも元は白いらしく、血で黒く見えていたのだった。

俺は後の車両の乗客も見てみた。

首がなかった・・・。

この時初めて事態の異常さと相当な危険度を感じた。
全身からいやな汗が噴き出た。
とにかく降りなければ!俺は次に停車してドアが開いたら即効で逃げようと思った。
ほどなくして電車は次の駅に停まった。

ん?なんだこの駅?

見たこともない駅名だった。
というか目の焦点がよく合わず駅名がよく見えない。
しかも一向にドアが開く気配がない。
ほどなくして電車が動き始めた。

俺は咄嗟に窓から飛び出ようと思ったが、窓がビクともしない。
しかしよく考えたら「まともではない場所」で外に出たら逆に危険な気もした。
生きて帰れなくなるからだ。

女子高生を見た。
両足ともなかった。
血が噴き出ている。
と、後のほうから何やら音が聞こえた。

ガラガラガラ・・・バタン!

車両連結部のドアを開け閉めしているような音だ。
その音がだんだん近づいてきているような気がした。
ヤバイ、何かが来る!言葉では言い表せないような劣悪な波動?を感じて俺は先頭車両の方へ移動した。
女子高生の前を通り過ぎた。
視線を向けずにいたが、すでにバラバラだったのがわかった。

そして1番先頭の車両に着いた。
空気が異様に冷たい。
俺は運転席のドアを開けようとしたがビクともしない。
というか運転手がいない。
と、電車がトンネルに入った。
外は真っ暗だ。
え?トンネル?当然、この路線にはトンネルはおろか高架すら無い。
車内の電気が消え非常用の赤色灯?になった。

バタン!

咄嗟に振り向くと連結部のドアを開け車掌?が入ってきた。
さっきからこっちへ向ってたやつだ。
暗くて顔が見えない。
手には金属製の長いアイストングス(氷を挟む道具)のようなものと、黒い大きな布袋を持っている。
袋の中では何かがゴソゴソと動いている。

ヤバイ・・・見つかった!

どんどんと車掌がこっちに近づいてくる。
本能が逃げろと言ってるが体が動かない。
情けないことに失禁寸前だった。
車掌は無言で接近してくる。
もうダメだと思った瞬間、俺の体を車掌がすり抜けた。

え・・・?
と、同時に強烈な、しかも妙に懐かしい匂いがした。

「まだ早えーよ」

そう聞こえたかと思うと、車掌は運転席に入って行った。

パァァァァ・・・ンいきなりすごい日差しが車内に入ってきた。
眩しくてしばらく目が開かなかった。

「新◯浜ぁ~新◯浜です。市営地下鉄をご利用の方は・・・。」

アナウンスで俺の降りる駅名が流れた。
ほどなく駅に着き、俺は茫然としながらもなんとか降り、ヘナヘナとホームのベンチへ座り込んだ。
一体今のは何だったのか・・・夢だったのだろうか・・・時計を見ると1時10分だった。
電車に乗ってからちょうど30分。
いつも通りだ・・・。

数年ぶりに起こった「あっち側の出来事」にヘトヘトになりながらも、あの車掌について考えた。

乗客はわかる。
たぶん飛び込んだ人達だ。
しかしあの車掌だけはどうしても納得がいかなかった。
あの匂い、ふいんき、あれはまさに俺自身だったんだ。

どういうことだ?俺は将来、あっち側の車掌になるのか?それに「まだ早い」と聞こえたが・・いつか俺が飛び込むということなのか?ふと足元の靴を見たら裏にベッドリとドス黒いものが貼りついていた。
すぐに靴屋で新しい靴を買い、それは捨てた。

幸い今は勤務先が変わり、Y浜線は使っていない。
しかし今でも一体あれは何だったんだろうと謎のままだ。

おしまい。