ある日1人でハイキングコースのようになった山道を歩いていた。
1人だったのは、予定していた友人が体調を崩して急に行けなくなったから。

ちょうど紅葉の季節だったので、1人でゆるりと紅葉を見ながら行くのもいいものかと思い、結局1人で行ったのだった。
ハイキングコースとは言っても休日は家族連れでわいわいしているような所なので、そんなに本格的な山道でもないが、所々右手には壁のような斜面、左手には崖のような斜面といった具合になっている。

そんな感じの場所で紅葉を楽しみつつ、気に入った風景は携帯の写メールに収めたり、行けなかった友人にそれを送ってあげたりしながら楽しんで歩いていた。

その後、歩いているうちに道が二股に分かれている所に行き当たった。
二股の真ん中には山の中でよく見る木でできたそこそこ年期ものの標識。
左に行けば目的地、反対に右に行くと・・・と思ったら知らない場所へ続く道。
まぁ初めて来た場所だから、見たことない地名くらいあるか・・・と思いつつも、なんだか妙にその先が気になる。

元々自分の性格上、行ったことのない道や知らない土地に向かう道はなぜか、わくわくして行ってみてしまうことがある。
その時も日没までまだ少しだけ余裕があるし、抜けられなかったら引き返せばいいや!くらいの気持ちで、好奇心に従ってみることにした。

右の道は今まで来た道と同じく所々森になったり崖になったり、川が下のほうで流れてたり、景色の変化を楽しみながら歩くことができた。
ふと気付くと二股になる前の道と比べると人がいない。
というか、この道に入ってきてから誰も見ていない。
まぁ二股の左道のほうが近いのかな?とか、あんまり深くは考えなかった。
けれど、少ししてから異様なことに気付いた。

さっきまで鳥が囀っていたり、小動物をちらほら見かけていたのに、それが全くない。
気持ち悪いほどの静けさと、空気の張り詰めた感じ。空気の張り詰め方が尋常じゃない。
ここにいたくないって感じるくらいの居心地の悪さ。
山の怖い話しとかで、よくなにかが出る前の雰囲気に似ているから、そんなことを思い出したのがこう思わせてるのだと思った。
このまま進んで行っても着くのか分からないし、なにより雰囲気が嫌なので引き返すことにした。

1時間もしないうちに標識に戻れるくらいの距離だったと思う。
自分の荒くなる息と葉や砂利を踏む音しかしない道を歩いていたら、不意に後ろからオッサンの笑う声がした。
談笑するくらいの声で、そこそこ離れてる感じの大きさ。
とにかく張り詰めてたから、人がいるってことですごいホッとして、後ろを振り返ったんだ。

・・・おかしい、確かに聞こえたのにいない。
道はほぼ一直線だから、見えないはずはない。

況が状況なだけに、ほんと怖くなって全身鳥肌で小走りになった。
この雰囲気の中、「頼むからなにも出ないでくれ・・・」そればかり思っていた。

そういうときに限って変な事に気付いてしまう。
引き返し途中で左右が森に囲まれた時、薄暗い森の中から何かに見られてるのを感じた。
絶対に見られてる。
それも複数に、ほぼ360°から。
怖くなって更に小走りが早くなった。
でもそれらは小走りでも並行してついてくる。

気配とかそんなんじゃなくて、明らかに見てる。
生まれて初めて、怖くて泣きそうになった。

そんな焦りの中、自分の影だけが先を走っていく。
生身の人間に会いたくて、この空気からとにかく抜け出したくて、怖いから森は見ずに一心不乱に駆けた。
走りながらどんどんマイナスなことばかり考え付いて、一層恐怖心を煽った。

まさか自分の影の隣に得体の知れない影がなんてことはないよな?とか、そんなことを考えてしまって、自分の影を確認してしまう。
相当な恐怖心で確認するも実際影は自分のだけ。
ホッとしたけど、なんか違和感。
影は1つなんだけど、なんか違う。

もう1度見て分かった。

小走りしてる影に半呼吸ほど遅れて影が動く。
最初は全く意味が分からなかった。
現実には4~5秒だと思うけど、自分の中では10秒くらい考えてたと思う。
突然意味が分かった。
ほんとひらめくって感じで。
影は自分の足から伸びるはずなのに、遅れて動く影は自分の足より少しだけうしろから伸びてるんだよ。
もう気付いたときはダメだった。
コケたら崖下とか考える余裕もなく、全力疾走。
もう影なんて怖くて見れなかった。

結局なんとか着いたよ、二股のあの場所まで。
1つおかしかったのは、行きは普通の道だったはずの道が、帰りのラスト5分くらいから草ボーボーで明らかに人が歩くような場所になってたことかな。

ほんとに踏まれてない草道。
二股の場所に出た瞬間、老夫婦にびっくりされた。
そりゃ人が入っていくような道じゃないとこから猛ダッシュで人が出てきたらびっくりするわな。

最後に標識見たら右に行く道には標識はなく、左の道の案内で「○○まで○○m」みたいなことしか書いてなかった。
あれは物の怪の仕業だったのかな・・・。
そう考えると怖いから、無理矢理狐に化かされたってことに・・・

山でこんな不思議な体験したことない?