あんま怖くないし文書能力ないけど。

3月11日。
人の悲鳴を聞きながら逃げた。
自分が住んでいた街は津波に飲まれ、大火災にみまわれた。
沿岸部にあった漁船の燃料タンクが津波で流されて漏れ出した油に引火し、瓦礫にも火がついて燃え上がったためだ。

半年後、ライフラインが復旧し始めたが、町が受けた被害は相当なものだった。
死者行方不明者は未だに全体把握が進まず(半年の段階で)遺体は一部のみが見つかるだけでも良いほうと言える状況だった。

私は実家に母と住んでいた。
姉は市内で働きながらアパート暮らしのシングルマザーで娘がいた。
仕事を失った私は同市内に住んでいる祖父祖母の体調をみながら瓦礫撤去の日雇いの仕事をしていた。主に市の中心部での仕事で、私は市内の外れに住んでいたため自転車で仕事場に通っていた。(車は津波でピザみたいになっていた)

瓦礫を撤去していると・・・。
手を見つける。
体を見つける。
脚を見つける。
頭を。

こんなことがあった。

だから、どこかで何かが麻痺していたんだと思う。
ただただ手を合わせることしかできなかった。

一つ間違えばここにあったのは自分の身体の一部だったのかもしれない、そんなことを思いながら仕事をしていた。
仕事の内容が内容だけに祖母がある霊山に行った際に貰った御守りを私にくれた。

「海で亡くなった人にひっぱられってなんだがらぁ」

私は祖母の気持ちが嬉しかった。
霊障なんてことは自分にはないだろうと、ただ単に怪我をしないようにと、御守りをそんな風に思っていた。

仕事が終わった私は自転車で家に帰る。
夜の道を私は海沿いに帰る。
あれだけのことがあったのにその道だって浸水し、遺体が上がり、不衛生な所だってあるのに、それでも私はその道を帰っていた。
元々は自分が高校生の時に学校に通うため通っていた道だった。

海が見え、星が見え、満月の時には海面に月が写る道だった。
でもそれは昔の話で、今では家が残っている人しか通らない道だった。

その日私は自転車につけたウォークマンに外部スピーカーをとりつけ音楽流しながら家路についていた。
時間は夜11時、同級生にたまたま会い、話し込んだためである。
途中に砂浜があった場所を通る。
砂浜は津波でえぐられ地形そのものが変わっていた。
砂どころか防波堤ごと無いのである。

近くには百件以上の民家と民宿一件があったが全て海に持っていかれた。
そのため海沿いの道がかろうじて残っているだけである。
海の横に道があり、その反対側に海水の水たまりがある。
海水が土に染み込み反対側にまで流れたためだ。

砂浜だった場所を通る途中でチェーンが外れた。
こんなことはよくある。

「はあ・・・」

ため息をつきながら私はチェーンを直した。
すると、ジャブッ・・・ジャブッ・・・・。

誰かが脚を水の中に入れて歩いているような音が聞こえた。
ちょうど膝くらいまでの深さに脚を入れてだ。

海を見るが誰もいない。
水たまりを見るが誰もいない。

流石にこんな時間に作業をしている人がいるわけがない。
私は自転車に乗り漕ごうとペダルに脚をかけた。
すると音楽を流していたスピーカーからノイズが流れ始めた。
歌詞が飛び、轟音のような音がした。
自分は知っているこの音をあの日聞いた音。

津波の音だった。

音の途中で悲鳴やうめき声が聞こえる。
波に飲まれかき消されていく。
私はスピーカーを引きちぎり岩に叩きつけた。

そうだそうなのだ。
ここだって大勢の人が死んでいる。
なのになぜ私はこんな道を通っている?自分が数ヶ月してきた行動を不可解に感じ始めた。

私はその場を離れて山側の国道に戻ろうもと、来た道を戻り始めた。
スピーカーがなくても声は聞こえる。
なんと言ってるのかわからないが聞こえる。
だんだん言葉が分かってきた。

「タスケテ」

「死にたくない」

「いやだ!いやだ!」

誰だってそうだみんな自分があんな理不尽な死に方をするなんて思っていなかった。
自分だって少し違えば死んでいたのだ。
だからだからこそ「自分には何も出来ないんです!できないんです!!!」と、大泣きをしながら私は叫んだ。
どんなに可哀想に思っても自分には何も何も。

私は気がつくと通りかかったタクシー運転主に起こされた。
津波で道路にできた穴に自転車ごと落ちていたそうだ。
足だけが道路に出て運転手がたまたま見つけたとのこと、自転車はフレームが曲がりグニャグニャになっていた。
どうやったらこんな風に・・・いや、この曲がり方は見たことがあった。

「怪我はない?」

「はい・・・」

「送っていくよ」

「あ、でも今2000円しかなくて・・」

「代金はいらないからK寺に行こう」

「え?」

そこからまた記憶は飛ぶ、怪我はないとはいえ身体を強くうっていたためかうまく動かず意識が朦朧としていた。

その後、お寺で目を覚ました私は清められお祓いをしてもらった。
住職はお寺に私が来たときから何かしらの霊障にあったことに気づいていたそうだ。
お寺で一泊し、次の日に母や姉が泣きながら迎えにきてくれた。

お寺の住職がどう連絡したかはわからないが、母と姉の様子は普通ではなかった。
私は住職に頭を下げ帰ろうとした。

「あ、まって」

住職が呼び止めた。

「それはもうダメだからこれをもっていきなさい」

祖母の御守りを渡すように言われ、中身を開けた。
木の板が入っていたが、なぜか燃えた跡があり、割れていた。

「はい・・・」

私は理解した。

「すいません、昨日私を送り届けたタクシーの運転手さんに連絡できますか?」

「?」

住職は不思議そうな顔をした。

「昨日、君はお寺の近くで倒れていたんだよ?色んなものを背負ってね。だから私はそれを祓ったんだ。」

私はお寺をあとにした。

私の家の近くには未だに瓦礫がある。
車は当時のまま積み上げられている。
そこに私が乗ったタクシーがある。
同じ業者のではなくナンバーも同じのタクシーが「助けてくれたんだよ」祖母に話すと祖母はそう言った。

今は地元を離れある地方都市で仕事をしている。
今でもたまにあのタクシーと同じ車種とナンバーのものを市内で目撃されるそうだ。