一人住まいをはじめて三年・・・ここには俺以外に誰かいる。

意味も無くドアが開き、倒れるはずの無い花瓶が音も無く倒れる。
俺は慣れてしまったから「静かにしろよ」と叱る程度。
だが友人たちは勝手に落ちる本や二階から威勢よく降りてくる足音にパニックで帰っていく。
そんなことが続いていたが音だけだったので放っておいた。

しかしついに実体を見てしまった。

夜風呂に入ろうと二階から降りて行こうとした瞬間、下の部屋のドアから手だけが出てバイバイしている。
一瞬思考が止まり・・・次に正体を確かめるべく駆け降りて部屋を覗いても当たり前だが無人。
さすがに怖かったので家中の電気をつけて風呂に入りつけたままその日は寝た。

それからしばらくは何も無く過ごして忘れてしまった昨夜、ビールを取りに行こうと階段まで来たそのとき、階段の下から無表情にこちらを見つめる女と目が合ってしまった。

ガクンと腰が抜け恥ずかしいことに小便を漏らしてしまった。
動転した俺はそれでも女から目が離せなかった。
すると女はエスカレーターを昇るように俺に近づいてきた。

女は俺の前に来ると俺を見下ろしながら囁くように「苦しいの・・・」と言った。
まっさかそれが話をするなんて思いもしなかったのでそのまま気を失ったようだ。

今朝たまりかねて新居に移った・・・。

両親のとこに駆けこみ事の次第を告げた。
それによると母親はここにいたときに仏壇にお供え物をする際、祖先と無縁仏にもあげてたらしい。
それが仏壇の移動とともになくなりお茶もあがることが無くなってしまったわけで、それが原因かなと・・・ただ誰かは知らないよと。

「母さんそう言うことは早く言ってよ・・・」

今、俺は部屋にお茶とお菓子をお供えしてハンニャシンギョウを唱えていた。
気配を感じながら・・・。