実家が墓地の隣にあった。
あたり一帯寺の敷地内だったし、生まれた時からだから気にもしてなかった。

長所は、都会なのに日当たり良好、緑豊か、とっても静か、地上げ屋も最後まで手をつけない。
欠点としては、障子やカーテンに卒塔婆や墓石のシルエットが映り部屋のでコーディネイトどころじゃない。
彼岸時はいぶされるので家族全員避難する。
遊びに来た友達が気味悪がる。
で、やっぱ時々普通じゃないことがが起こる。

月に1度くらいの割合納骨があったけど、葬式と違って腐るわけじゃないから、休日にやることが多かった。
うるさいんだよね朝寝ができない・・・。
地面コンクリだし何十年も開けてない墓だと業者がドリルまで使ってこじ開ける。

で、納骨のあった晩は来ることが多かった、新しいお隣さんが挨拶に。
突然窓をバンバン叩く音がするとか、猫が空中にむかってシャーシャー言うとかはよくあった、小窓から目だけが覗いたりするとかはマジ怖かった。

「あ、新しい人が来たんだね」と、かーちゃんは嬉々として、仏壇に死んだじいちゃんばあちゃんの湯のみの他に、見えない来客専用の湯飲みを置いて、お明かりと線香をつける。

手を合わせて「ようこそいらっしゃいました、何のお構いも出来ませんが、これからよろしくお願いします。ここはいい所だし、ご住職さんも立派な方で、あーたらこーたら・・・」と、一方的に世間話をする、相手の反応があろうとなかろうと、家族の紹介から愚痴まで小一時間は続く・・・。

これで大抵の来客はすっかりなじむか、近寄らなくなる。
ここまでだったら、怖いのはおれのかーちゃんだったって話なんだが、たまには凄いのも引っ越しして来る。

大抵はかーちゃんが先に気づくんだが、こういうのはなぜか俺のところに来る。
動物霊連れで来るのがいるんだが、一番インパクトがあったのはでかい牛と一緒に来た霊だ。
その日は夜中に金縛りと同時に、白い牛が壁から染み出してきた。
物凄く生臭い匂いがして、牛の目が表現できない怖さだった。
少し体が動くようになったが、豆電球の明かりの中、牛はすっかり部屋に入っている。
散らかった六畳間がいっぱいだった。

で、牛の体の下、腹のところから50歳くらいのおじさんが生えてるのに気づいた瞬間絶叫した。
・・・したつもりだったが後から聞いたら、家族には聞こえていなかったそうだ。
一緒に寝てたはずの猫もいない、見捨てられたらしい。

知っている住職さんに貰った札と経を手に、とにかく恐怖に負けないって気迫だけで睨んでるうちに、壁に吸い込まれていった。
もう4時過ぎになってた。

すぐ、かーちゃんたたき起こして一緒にいてもらった。
仏壇に向かってご先祖とご近所さんに助けてくれるように泣きながら頼んだ。
トイレもかーちゃんと一緒に行った。
高校生の男子としては情けなかったけど、トラウマにならなかったのが不思議なくらい精神状態逝ってた。

翌日、住職さんに来てもらってお経を上げてもらった。
生前や前世の因縁のあった牛の悪霊に取り込まれたんだろうと言っていた。
しっかりご供養するから安心しろと言われたが、部屋では1月近く眠れず、弟の部屋に避難した。

生えてたおじさん苦しそうだった、牛も憎悪とかマイナスの感情が全部詰まったみたいな目をしてた。
それから確かに現われなかったけど、本当に成仏できたんならいいと思う。

色々ある中でコレが一番の恐怖体験。