もう15年くらい前の話。

会社から車で帰るとき道路の横に銀座の高給クラブが開店するときに送られるような胡蝶蘭とかバラとかユリとかが置かれていた。
物凄い大きさの花束が多数ある。

なんだ、配達の花屋の荷台から落ちたのか?と幾つか頂いて後部座席に積んだ。
家に帰って、その頃は親と同居だったから、花好きのお袋に上げた。

母:「これ5万はするよ、どうしたの?」

そう母は大喜びした。

その夜だな。
変な夢を見た気がした。
でも朝、起きたら思い出せない。

出勤して仕事中に部長に「○○君、例の機械は先方に何時までに返しておけばいいんだっけかなー」と聞かれた。

「あーあれはですね、確か・・・(返す?かえす?あれ、なにか・・・・・・)」

その瞬間、頭に浮かんだ。
というより目の前に見えた。
頭からおびただしい血を滴らせた、肩に付くぐらいの長さの乱れた髪の毛の女が。

「か・え・し・て・・・」

俺は体中から血の気が引いた。
あまりにリアルな映像と音声だったから。
後ろの席の女子社員が言ったのかと思って振り向いた。
気分が悪くなり俺は早退して車で帰路についた。

霊感とか大笑いしていた俺だが、帰宅途中の車中で後部座席に誰かいるんだよ。
自分がどうしちゃったのか分からない。
幻覚は見るし幻聴は聞こえるし・・・。

「か・え・し・て・・・」

もう俺死んじゃうのか?と自問自答した。
勿論怖くてバックミラーなんか見れない。

そして、昨晩花束を拾った所でたまたま信号待ちで停まった。
見るとはなしに見ると、血の気が引いたね。

昨晩は暗くてよく分からなかったけど、花束が追加されていた歩道の段の所に線香が立って煙が出ているんだよ。
手紙とかメンソールのタバコとかシャネルの口紅とか。
それらの品物が整頓されて置かれている。
ドンペリの栓が開いていて、シャンパングラスに注がれ、お供えされていた。

理解した。

そういえば、後部座席に積んだ花は全て白い花だった。

かなりの立場にある若い女性が事故で死んだのは容易に想像出来た。
なぜ若い女性と分かるかというと、見たから。

家に帰り母親が花瓶に埋けていた花を全て集め、さらに花屋へいき5万円分の白い花束を造ってもらった。

現場に向かう途中も車の後部座席に彼女は乗っていた。
見てはいないが間違いない。
しかし、もう「か・え・し・て・・・」とは言わなくなっていた。

現場に着くと花を返し、お供えして何度も何度も手を合わせお祈りした。

車は直ぐに買い換えた。

あれ以来、夢にも新しい車にもあの女性は現れてはいない。
ただ、会社で見た彼女の瞳は何故か、白目が無くて黒目だけだった。

冷静に考えれば、道路の脇にお花が供えられていれば、それが何を意味するかぐらいは分かる。
ただ、常識外の豪華な花束だった。
今思い出しても知らなかったとは言え、献花を拾った自分が恥ずかしい。
そして死ぬほど恐怖した体験なのも間違いない。