俺の体験した話をひとつ。
これは、岩手県遠野市に旅行に行った時のこと。

時間は黄昏時。
とある民宿を探し、俺は山の中を歩いてた。
山の中・・・・・・って言っても、舗装された広い道路があって、脇には公衆便所や民家がポツポツとあった。
で、そんな民家の側に、一人のお婆さんがいたんだよな。
そのお婆さん見つけた時、正直ラッキーって思ったさ。
丁度道がわからなくなってたからな。
それで、渡りに船と思って、お婆さんに道を聞いたら、「そこの坂をね、まっすぐ行くんだよ」と。

俺は驚いた。
なぜかっていうと、道路の方ではなく、人一人通るのがやっとの急な坂を指差しているのんだから。

俺は間違いだと思って聞き返した。

俺:「ここをずーっとですか?」

お婆さん:「ああ、ここをずーっと」

間違いない。
お婆さんは、確かに細い坂を指差している。
俺は観念して、そこを上っていった。

辺りは近代的な道路とは無縁の山道。
雨が降ったらしく、足下の土からは、ぷぅんと泥や草の香りが漂ってくる。
聞こえる音といえば蛙の声だけで、まさに、遠野物語そのものの世界だった。

と、突然!
プァンッッ!!

耳を貫くような電車の音がした。
まるで、すぐ背後で聞こえるかのようにはっきりと。
神経過敏になってたこともあり、俺は驚きのあまり、ビクッと体を震わせてしまう。

俺:「なんだ、電車かよ」

思わず声に出す。
そうでもしないと、心が落ち着かなかったから。

一人というのが、これほど心細いものだとは思わなかった。
正直、妖怪が出るかってよりも、毒蛇や熊がでないかって怯えてた。
おばけはいるかわからないけど、連中は確実にいるから。

とにかく、山の中を、一歩一歩、道なりに進んでいく。

蒸し暑く、汗はだらだら。
背中と脇には、重い荷物を負っているもんだから、どんどん体力は奪われていく。
そのまま道を行ったとき、目の前に細くて長いものがドタッと!

蛇だ!!

咄嗟に思った。
恥ずかしい話、叫びながら逆走していった。
そんで、息も絶え絶えに民宿に電話したんだよな。

そしたら、なんて言ったと思う?

民宿:「全然違う道ですよ」

こう言うじゃないか。
やっぱり、お婆さんの教えた道は間違えていたのだ。

俺:「あのばばあっ!!」

それから、俺はお婆さんの悪口を言いながら、民宿へと向かっていった。(ちなみに、あの長いやつはミミズだった。どんだけチキンよ)

その後、民宿の主人から信じられない話を聞いた。
話よればこの山には、悪い狐がよく出たそうで、昔、よくいたずらを繰り返していたという。
以前、ここを予約していた人も、化かされたそうだ。(なんでも、芋畑を川に見せられたとか?)

その話を聞いても、俺は半信半疑だった。
だって、そうだろ?狐が人を化かすなんて、小学生じゃあるまいし。
けど、布団に入った時、ふと思い出して「あっ」って思った。

・・・そういえば、あんなところに電車は通ってなかった。
じゃあ、あの音は?

次の日、民宿の主人に聞いても、やっぱりあの辺りには電車なんて走ってなかったそうだ。

明治時代、狸が列車に化けたという話がある。
迷信として葬られた妖怪達も、深い山の中で、今も生き残っていると言うのだろうか?
とにもかくにも、こうして俺は、遠野の妖怪に手荒い歓迎を受けたわけだ。