ふと思い出した昔の話。

突如息抜きをしよう、ということになり友人とドライブに出発した。
時間はたぶん夜中の三時か四時くらいだった。

適当に市内を走っているうちに、これまた唐突に「埠頭に行こう!」ということになった。
海の近くは工場地帯で昼はトラックの往来が多いが、逆に夜はほとんど車は通らない。
道幅も広いし真っ直ぐな道も長く続くので、週末なんかは走り屋なども集まる。
しかし、その日は週中の平日で、走ってるのは自分たちくらいだった。

修羅場中でテンションが上がってたせいもあって、妙なノリで埠頭を目指してたら途中の信号で止まった時に一台の車に出会った。

車種や色なんかはよく覚えてない。
でもライトバンていうのかな、普通の車よりちょっと大きいのだった。

自分は助手席にいて、信号が変わるまでなんとなくその車を眺めてたんだけど、そのうち乗ってる人になんか妙な違和感を覚えた。

なんだろうなーと思ってるうちに違和感の理由に気付いた。

後部座席にいる男の顔の下半分だけが妙に黒かったんだ。

なんで黒いんだ?

思わず凝視してたら、その人に見てること気付かれた。
そうしたらなんていうのか、物凄い目を向けられた。

まさに“必死”っていう感じの目。

それだけじゃなくて、そのうちに窓に顔を押し付けるようにしてこっちを見てきた。
窓にべったり顔くっつけてたから、男の口元に黒いガムテみたいなのが貼られてるのも見えた。

さすがにビビってたら、突然その男が窓から消えた。
たぶん、その後部座席にいた他の人に窓から引き離されたんだと思う。

それと同時に車は急発進して走っていった。(信号はまだ赤だった)

車が向かったのは私らも行こうとしてた埠頭の方角。
ちなみにその埠頭は、潮の流れが複雑らしく、落ちたら浮かんでこないとかで、ある種の心霊スポットだったけど、地元のヤクザが死体を始末する場所のひとつだという噂もあった。

平日の真夜中にガムテで口を塞がれた男を乗せた車・・・。
死体を沈める場所だという噂のある埠頭の近くだったので、さすがに行く気が失せた。

友人共々それまでのノリも一気に冷めて、大人しく家に帰って修羅場に戻った。

実際のところあれがなんだったのかは今もよくわからないけど、今でも思い出すと、なんとなく背筋が薄ら寒い気分になる。