元同僚の話。

彼は山奥の工業団地で、工員として働いている。
務めている工場の敷地は広大で、幾つもの渡り廊下で繋がっている。
その中の一つに、従業員達が気味悪がっている廊下があるらしい。

そこを歩いていると、すぐ横を黒いボールのような物が、庇から転がり落ちる。
そして地面で一度弾んでから「痛っ!」と叫んで、煙のように消えるのだという。

出会した者は皆、目を逸らし直視するようなことはしない。
だから今でもそれは「黒いボールのような物」としか呼ばれていないのだそうだ。