女優、高橋恵子の話。

私の出演していた『魔性の夏』というのは四谷怪談のお話で、私はその中の、お岩を演じさせていただきました。
お岩は自分の愛する伊右衛門から毒を飲まされて、親も殺されて、そして顔が焼けただれたような状態になるんですが・・・その時のセリフに「私の顔がない。私の顔は誰?この顔は誰?」そういうセリフがあるんです。

実際に演じる時には、カツラから続けて焼けただれた顔を作っているんですが、やっぱり頭と、焼けただれたメイクをした部分が千本の針で刺されているような痛みが起きまして、じっとその痛みに耐えながらその日は撮影を終えたんです。

次の日になると、「お岩さんの苦しみだとか、悲しみだとか、その辛さが本当にわかっているのか?」って、
誰かに言われているような気がして・・・悔しかった想いとか、無念の想いとか、本当は自分の愛する人に本当に愛されて幸せになりたかったとか、そういう事を考えながら、そういう気持ちで次の日から現場へ行きました。

そしたら、前の日に起きたひどい頭の痛みが消えたんですね。
だから、やっぱりお岩さんは自分を演じる私に何かを訴えていたのかなって思うんです。

自分の愛する人から毒を飲まされたり、自分の親を殺されたり、その話しを映画とか舞台で今生きている私達は商売にするというか・・・本当の気持ちをどこまでわかって作品にしているのかなって思った時に、醜い顔のお岩さんしか皆さん知らないかもしれないけれど、でも心はとっても美しくて、表面のそういう顔だけで判断しないで欲しいっていう事を、伝えて欲しいって言われているような気がしました。