長谷川博一著『殺人者はいかに誕生したか』に載っていた、愛知で起きた、小学5年の息子をせっかん死させた母親の事件が後味悪かった。

犯人である母親M子は子供時代父親から虐待を受けていて、それがトラウマになり精神状態がひどく不安定だった。
彼女はパート先で同年代のS子と出会い仲良くなる。
彼女は積極的に近づいてきて、「私たち親友よね」などと慣れ慣れしく言ってきた。

普通の感覚の人は怪訝に思うところだが、対人関係が苦手で友達のいなかったM子はとても喜び、二人は親密になる。
家に招待すると、S子は自分の子供を連れて入りびたるようになり、夕飯を食べていくようになる。
さらに、欲しいものがあると「これくれない?」と言って、持って行ってしまう。

M子は夫と不仲で家庭内別居の状態だった。
そこへS子は男性の写真を見せて、「この人、あなたが好きだと言っている。ぜひ手作りのお弁当が食べたいって」と言うと、自尊心が低いM子は「私を好きになってくれる人が!」と有頂天になり、毎日昼食の弁当を作ってS子に渡した。

さらに「この人会社の経営が大変みたい」「身内に不幸があったから香典を」などと、次々に現金を要求してくるようになり、M子は疑うことなく払い続けた。
もちろん全て嘘で、弁当はS子がしっかり食べていた。

あるとき、M子の長男(後の被害者)がS子の子供の面倒を見なかった、というのがきっかけで、S子は長男に憎しみを抱くようになり、M子のしつけに介入してくるようになる。
「しつけが甘い」「もっと厳しくするべきだ」「そのうち悪い子になる」と、脅すようなことを言う。

そのうち家の中でトラブルが起こりだした。
子供部屋に赤いペンで『みんな殺す、死ね』と書かれる。

長男の机の上に包丁が置いてある。
部屋が水浸しにされる。
家の物が無くなり、長男の机から見つかる、など・・・。

S子はそれを見て「私の言うとおりにしないから!甘いとますますつけあがる」と言い放ち、M子はすっかりそれを信じてしまう。
しかし、それらの悪事はすべてS子の仕組んだものだった。

息子を精神病院に連れて行き、S子と二人で長男の悪事を並べ立てると、長男に『行為障害』の診断が下った。
もはや微塵もS子を疑わないM子に、ますます助言はエスカレートしていき、「一緒にいると家族が危ない、ベランダに出して家には入れるな」と命令されM子は従う。

自力で脱出する長男に困りS子に相談すると、「まだまだ甘い、逃げ出さないようにテープで縛るのよ」と言われ、手足を縛った。

長男が暴れるとまたS子に相談し、全身ぐるぐる巻きにするように言われる。
睨んで怖いと相談すると、目にも張れと言われ、結局S子の命令に全て従った。
そのまま3日放置された長男がついに息絶えると、慌てたM子はS子に電話で伝える。

S子:「私に任せろ、うまくやってあげる、私の事は黙っているように」

現場の異様さに、すぐに母親のM子は逮捕されるが、彼女は指示された通り誰にもS子の事を話さなかったため、単独犯ということで捜査が進み裁判にかけられた。
だが供述の不自然さやつじつまの合わないことが多く裁判は迷走したが、カウンセリングや治療を受けたM子が、1年近くたってようやくS子の存在と関与を明かした。

そして懲役2年6月の実刑が下り、判決理由の中で『第3者(S子)が主導的な役割を果たした』と認められ、それを受けて警察はS子の取り調べを始めるが、証拠不十分のためS子の起訴にまでは至らなかった。

本に載っていた部分はこれだけで、夫(父親)は何してたと思われる人もいるかもしれないので自分で調べたら、当初共犯者として逮捕されたが、犯行に加わってはいなかったとしてすぐに釈放されたらしい。
縛られた長男のテープを取ったこともあったが、M子に激怒されてそれからは見て見ぬふりをしていたという。