小さかったときの話。

じいさまに連れられて町を歩いていたんだが、小さい俺は何を思ったのだか、家を出た朝からずっと『(火が)付く、付かない』と心の中で呟いていた。
それにはルールがあって、建物から出たりするときは『付かない』で終わること。
それであれば問題なくて何も起きない。
小さな子供が商店街の黒いタイルを落とし穴に見立ててよけながら歩くような、他愛もないゲームのようなものだった。

バスを降りるときも昼ご飯を食べて店を降りるときも『付かない』で終えていたんだが、喫茶店で(何が理由であったか忘れてけど)『付く』で店を出てしまったんだな。
ちょっと後悔したけどどうせ遊びだし、家に帰って晩ご飯を食べた。

その後なんだが・・・家族がニュースを見ていると急に騒ぎ出した。

「今日行った喫茶店が燃えている!」という。
しかも、じいさまと店から出て30分くらいしか経っていない。

『付く』で終わった店が燃えて、自分が火をつけてしまったように感じて怖かった。
次の日も癖になってしまったようで『付く付かないゲーム』を始めたけど、無理矢理止めた。
それから行った店が燃えたことはない。