小学生の頃、林間学校に毎年行っていた。
俺が6年生の時、行事の中に肝試しがあって、夜中に懐中電灯一つ持って、三人一組で山の中を歩くことになった。

本能的に闇は怖かったんだが、強がって俺は先頭をライトを持って歩くことを志願したんだ。
背が低い俺の後ろを、太ったTと、ヒョロ長いKが付いてくる。
たぶん三人とも怖かったんだろうけど、強がってはしゃいでた。
理由は覚えてないが、俺達は横一列ではなく、縦に並ぶように歩いていたと思う。

一番後ろにいたKが、「何か変な匂いしない?」と言い出した。
俺は何も感じなかったし、Kが脅かそうとしてるんだろうと思った。
Kはまだ気にしているようだったが、俺達は歩き続けた。

急に後から吹っ飛ばされて、懐中電灯も飛んでいき、俺は痛みに泣きそうになりながら叫んだ。

俺「何すんだよ!!」

後ろからはTの泣き声とKの叫び声が響く。
とりあえず懐中電灯を拾い、後ろを照らすとTしかいない。
Kの声は俺らの進行方向とは逆に向かっていく。

何か怖くなった俺は、とにかく一人で走った。
後からはTが「待って~」と言いながら付いてきているようだ。

とにかく走って、俺らが泊まっていた旧校舎に着いた。
直ぐに先生にKのことを話すと、無線で他の先生方と連絡を取り、K以外の児童は全員集められた。
そして男の先生三人でKを捜しに行き、警察にも連絡をしたようだ。
ド田舎なので捜索隊を集めるにも時間がかかるらしく、俺が就寝する前には捜索がはじまらなかった。

先生達が一回りしても見つからず、とにかくその日は寝ることになった。
布団の中に入っても、Kの声が耳に残っているのか、実際に聴こえているのか分からなかったが、Kの叫び声が小さく聴こえて、何時間も眠れなかった。

Kは「ギィギャー、アー、ァァアアア」とか叫んでた・・・。

次の日、本来後1日あるはずだった林間学校は中止になり、俺とTは警察に話を訊かれていた。
俺は急に突き飛ばされて訳がわからなかったが、Tは一瞬何か凄い臭かったと言っていた。
周辺から羆の足跡が発見されたため、山狩りが行われたらしいが、結局Kは行方不明のまま終わった。

時は過ぎ・・・そして俺が大学生になった。

ある日、深夜に一人バイクで山を走っていたら、急にバイクのエンジンが止まった。
何も光が無い真の闇の中、俺は子供の頃の体験を思い出し震えた。
何度セルを回してもエンジンが付かない。
周りからは風の音、不気味な生き物の鳴き声がする。

恐怖でパニックになりかけたが、とりあえず携帯のライトでリザーブタンクにコックを合わせたり、押しがけをしてみたが動かない・・・。

疲れたので少し休むと、ふと変な匂いがすることに気が付いた。

もしかして・・・と思い、携帯の音楽を最大で鳴らしても、匂いは変わらずする・・・。
ザーッと草が動く音がし、俺はビビりまくって叫んだ。

それは風によるものだったみたいで、熊に襲われることは無かったが、心なしか匂いがさっきよりキツい。
俺は神様なんて信じてないけど、この時だけは祈りながらバイクのセルを長押ししてた。

・・・と、エンジンがかかった!!

すぐにバイクに飛び乗り、生きた心地しないまま走り、一時間くらい走って道の駅を見つけたので飛び込んだ。
そこで朝まで時間を潰し、ふと地図を見てゾッとした。

さっきいた辺りは、ドンピシャではないものの、昔Kが行方不明になった自治体のすぐそばだったからだ。

それ以来、いくら空いてるからとはいえ、深夜にバイクで遠出するのは止めた。