いわゆる『霊感のある人』のオバケ話は、霊感のない俺には全く怖くないんだけど、作家の遠藤周作が体験したっていうのは、リアリティがあって(というか嘘つく筈がない)すごい怖かった。

あんまり覚えてないんだけど、まず、午前0時きっかりに時計が止まる部屋。
吉原の廃止された娼館で娼婦が殺された部屋なんだけど、その部屋の時計は0時きっかりに止まってしまう。

殺されたのが0時か?

遠藤はそんなもん信用してないし、霊感もないので、意気揚々とその部屋に泊まりに行った。
自分の使ってる時計が偶然にでも止まる可能性がないように、電池(ゼンマイ?)とかもチェックして持ち込んだんだけど、果たして0時きっかりに止まってしまった。
そのあともラップ音や人の気配(廃館なのでもちろん人はいない)に、遠藤は怖くなってとんずらした。

それだけなら、オカルティックなことを恐れたりしなかったんだけど、今度は取材も兼ねて、自殺があって必ず出るという小屋に、同じく作家の吉行淳之介と泊まりに行った。

そこでは酒を飲んだりガヤガヤ話したりで、全く出る気配がなかったんだが、夜中寝てるときに、ふと吉行と自分の間に、背を向けて座ってる人影をばっちり見てしまう。

そんなわけない!と目を瞑るが、「ここで、死んだんです」っていう若い男の声を聞いてしまう。
恐ろしくてなおも寝たふりをしてると、今度は耳にべったりと口をつけて、「私は、ここで死んだんです」と、あまりに生々しい感触に飛び上がって起きると、なぜか吉行も顔面蒼白で起きてきて、「逃げよう!ここはやばい!」って一目散に逃げ出した。

外に出ると遠藤は木陰で嘔吐し、吉行はやはり同じような体験をしたことを明かした。
それに懲りて、遠藤は二度とそういう突撃をしないようになった。

信頼してる作家にそんなことを言われると、やっぱり俺は霊感ないけど、心霊スポットとかには絶対行かないようにしよう!と思う。

少なくとも、死者に対するリスペクトと鈍感を持ち合わせてる限り、そんな体験には遭遇しない筈だから。