三年ほど前の実話。

うちの父方の実家は田舎の旧家なんだけども、特に怪しいものはなかったわけ。
いや、都会には無いような神棚とかはあるけど、別に珍しくもなんとも無い物だしね。
俺も幼少の頃からよく行っていて、普段は触れられない自然に大はしゃぎしてた。

都会にはクマゼミ?が多いんだけど(ていうかこれしかいねーw)田舎ではレアで、現地の子供とかに「めずらしくもねーよ」なんて講釈たれてた記憶がある。
最後はそんなやつらに混ざって、真っ黒に日焼けして帰ってきてた。

そんな気心知れた場所だから、夜中とかは信じられないくらい暗くて静かになっても怖く無い。
広い家の中に、俺と祖父と祖母しかいないんだけど、普通に一人で、八畳の和室で寝てたわけ。(祖母たち二人は二階)
そしたら夜中に、外で話し声(歌?)と楽器(鈴みたいなもの?)の音。
それと、大勢の人が歩く足音が聞こえんの。

足音は揃っていて、軍隊の行進みたいだった。
時間は良く覚えていないけど、夜一時から三時の間くらいかな。
うちの庭から門を抜けると田んぼしかない。
ちなみにコンビニなんて気の利いたものもないから、そんな大勢の人間が歩いてるはずは無い。

俺は布団でゴロつきながら、最初はあまり気にしてなかった。
・・・ていうか夢現って感じ。
ぼんやりと実家にいるような心持で、事件かな、火事でもあったか、とか考えてた。

そしたら、その足音が庭にまで入ってくんの。
そこではっきりと目が覚めたね。
で、ありえねーって起き出した。

廊下に出て、雨樋っていうのかな?よく分からないけど、板の戸を開けようとしたんだわ。
その時は好奇心だけで、恐怖は感じなかった。
事件現場を覗く野次馬みたいな心境。
幽霊とか妖怪とか、そんなものに結びつけもしなかった。

そしたら、ドタドタって別の方向から足音がしてさ、祖母が走ってきたの。(どっちかというと、そっちにビビった)

七十超えた年寄りとは思えない速さで。
そりゃあもう、なにがあったってくらいの形相をしてた。

祖母「◯◯君(俺)。開けたらいけん。こっち来なさい」

俺「どうしたん?」

祖母「いいから!」

入れ歯してなかったから、何言ってるのか聞き取りにくかったけど、概ねこんな会話をして、神棚のある部屋に連れて行かれた。
俺はそのときも、凄い事件でもおきたのかとワクワクしてた。(不謹慎だw)

そんでもって、そこから祖母は朝までお祈りのしっぱなし。
祖父は飾ってあった日本刀を持って、ドアの前に仁王立ち。
いやね、正直笑ってしまった・・・なにがあったのかとw

しばらくは俺も大人しくしてたんだけど、いい歳した男が守られてるみたいなのはどうかと思って、「どっか強盗でも入ったん?俺もバッドでも持ってこようか?」とか言って立ち上がった瞬間、「ここにいなさい!」って、二人揃って絶叫。
マジで長年連れ添った息の合いかただった。

俺は訳も分からないまま、夜が白み始めて蝉が鳴き始めるまで、唯一置いてあったアルバム見てた。
昔はあんなに可愛かったのに、今はいい歳してコギャルスタイルな従姉に、何があったのかと黄昏ながら。

んで、次の日は祖父も祖母も大慌て。
近くの神社に行って話を聞いて、俺も夕方になって簡単なお祓いをされた。
なんか知らない人も何人か来てた。
そこでようやく、俺は事情を教えてもらったわけ。

なんでも俺が聞いたのは、百鬼夜行の足音らしい。
といっても、それは意訳的な意味で、なんとかウンギョウ?リョウ?行列とか言ってた。(すまん。聞いたこと無い単語で忘れた)

・そいつらは人間霊ではなくて、もっと違うものらしい。

・妖怪に近いものだが悪戯はしない。
ただ、姿を見ると連れて行かれる。

・良いものと悪いものに分けるとしたら、悪いもので関わらない方が良い。

・神社の井戸と、祠の間を同じ道で行ったり来たりしてる。

・俺のうちはその通り道だった。
それで神社にお願いして、道を変えてもらってたらしい。(確かにここらには、昔から通らない方がよいと言われている道がある)

・その日、祠が壊されたので昔の道を通った。

・家に入らなかったのは、神棚とご先祖様が守ってくれたから。

いやね、俺は最初「カルトじゃないんだから」とか、「あーあー、我が家もかよ」とか白けてたんだけど、よくよく考えると、普通じゃありえないよね。
なんで家に入って騒ぐ必要があるのかと。

寒くなって、帰る時にその祠に寄って、神社の人に渡された棒切れを置かされた。
なんかミミズみたいな文字が縦に書かれてるやつ。

その祠自体は初めて見た。
川の向こうだったから、行くことが無い場所だったんで。
石造りなんだけど、粉々になっていた。
コンクリートじゃない固い自然石で出来ていたのに、本当に粉々。
マジであんな潰れ方は普通はしないね。

断言できる。

大人が数人がかりで鈍器を持ってもまず不可能。
車が突っ込んだわけでもないらしい。

その時はなんにも考えなかったけど、後から色々考えて怖くなった。
話を聞いた後だからかもしれないが、嫌な雰囲気をしてたよ。
刺すような敵意じゃなくて、薄く延ばした狂気みたいなものが充満してる感じ。
お祭りみたいに浮ついてた。
手を合わせようとして祖父に怒られたw

帰り道に祖母に、「よう気がついたな。俺が外に出ようとしたの」って聞いたら、「神棚においてある鏡が転げ落ちてきた。それで気付いた」みたいなことを言われた。

俺は生まれて初めて、その神棚に手を合わせたw