私が遭遇した数ある恐怖体験の1つを書きます。
少々長くなりますがお付き合いお願いいたします。

大学の時の話です。
若気のいたりと言うことでご容赦願いたいのですが、当時大学付近でチラホラちょっとした噂を耳にする一般民家に夜中肝試しのような感覚で友達4人と向かいました。
なんでも夜な夜な、老婆が大声で非常に過激なことを独り言で叫びながら家の中をズルズルと這いずるような音が聞こえるとのことでした。
不思議と昼間は何も聞こえないそうです。

友A「やっぱ頭のイカれちまった婆さんがいるってことなんかな?怖ぇ~www」

なんてことを友達と談笑しながら歩いていると、あっという間に目的地へと着きました。
そこは平屋で土地はなかなか広いのですが、入り口のフェンスから人が立ち入るのが困難なほど庭全体を植物が覆い茂っていました。
家屋全体もツタが絡まり一見とても人が住んでいるようには見えませんでした。

A「うおぉ・・・なかなか雰囲気あんな」

私「何一般民家ごときでビビってんの馬鹿じゃねぇの?w」

友B「おいちょっと待て待て、何か聞こえんぞ」

その家の中から確かに老婆の叫び声が聞こえていました。
噂の通り家の中を何度もウロついているようで、内容が途切れ途切れですが、「~は~に殺された」「生まれてくるべきじゃなかったんだ」「私も殺される」「殺してやる」「あんたさえいなければ」といったことを聞き取ることが出来ました。

友C「怖えよ、やっぱ止めようぜ」

A「俺も無理かもしれん」

・・・言い出しっぺの2人が気後れしていたことにイラついた私はだったら帰っちまえと一括、友Bと共に先頭をきって庭の中へと足を踏み入れて行きました。

「わかったよ入るよー、こんなところに置いていかんでくれよー」とAもCも後からいそいそ着いてきました。

中は非常に歩きづらく所々ぬかるんでいて足を滑らしそうになりながらも、とりあえず婆さんの声を追ってみようと家屋の周りを老婆の動きに合わせて周回することになりました。

私は何か引っかかることがありながらも周回を続けていると、Bが少々怯えた様子で言いました。

B「なぁ、この家何か変じゃね?」

A「何が?」

B「どうやって出んの?ここ」

そのBの言葉にすぐ自分の違和感が何か気づきました。
その家屋、縁側に沿った大窓、勝手口、洗面所やトイレと思われる小窓、ありとあらゆる戸口に外側から大きな南京錠がかけられていたんです。
正面の玄関に限っては上から下まで計3カ所南京錠がかけられていました。

そんなはずないとAもCも訴え4人で鍵の施錠の有無も兼ね何度も確認しましたが、人が出てこれるような場所は1つもありませんでした。

これにはさすがに4人とも縮みあがりましたが、何もせずに帰れっかよ!と、私はなぜか謎の強がりを見せてしまいました。
ちなみに全員小声になっています。

B「せ、せやんな」

Bもしぶしぶ承諾し、嫌がるAとC尻目に本来の計画を実行しようと試みました。
それは計画といっても簡単且つ子供じみたもので、ピンポンダッシュを反応があるまでやるというイタズラでした。
その家屋にはチャイムが付いておらず、ピンポンダッシュならぬコンコンダッシュをして帰ることに。

当然、言い出しっぺの私がすることになり強気のBはすぐ後ろで見てくれることになりました。
弱気のAとCはさらに後方でいつでも逃げ出せる態勢です。

C「チャッと一瞬でやってさっさと帰ろうぜ」

私「うるせー今やるからちょっと黙ってろ」

怖気付きながらも、意を決して戸を叩こうと手を挙げたその時でした。

「ばたばたばたばたばたっ!!!」

先ほどまで家の中を歩き回っていたソレが戸一枚のすぐ向こう側まで急に走ってきました。
突然の出来事にその場にいた全員が硬直し動けなくなりました。
私は息が出来ませんでした。

すると「あんたがやったんだ。あんたがやったんだ。あんたがやったんだ。あんたがやったんだ。あんたがやったんだ。あんたがやったんだ。あんたがやったんだ。あんたがやったんだ。あんたがやったんだ。あんたがやったんだ」と壊れたテープのように抑揚のない無機質な声が戸の向こうから響いてきました。

その場にいた全員が叫び声をあげ、振り返ることもできず、全力疾走で逃げ帰りました。

かなり遠くまで離れた場所まできたところで恐怖から解放された私達は笑いがこみ上げてきました。

「なんだよアレ~www」

「俺死んだかと思ったわw」

「すんげー俺幽霊とかはじめてだわ」

「マジ呪われたりするとか勘弁w」

などと、その日は気が抜けたように明るく解散しましたが、後日あの日のことなど話題にも上がらなくなった頃、一人暮らしを始めたばかりのAとリサイクルショップを訪れていた時「あんまいいのなかったな」と店の出入り口まで差し掛かった時・・・そこには綺麗な真っ黒なレース地の服に同じく黒いレース地のつばの広い帽子を深く被った色白の女性がピクリとも動くことなく直立で立っていました。

いま思えば喪服だったのでしょうか。

な、なにやってんやろ??

そう思いながらもその女性を横切ろうとした時、「あんたがやったんだ」と一言、あの声で顔をあげた女性は言いました。

その顔はひどく痩せ細っていてまるで生気の感じられない肌の色をしており、瞳の色が確認できないほど、深いシワだらけの顔でした。

その女性との距離は僅かは人が二人分ほど、私達は時間が止まってしまったかのように動けず、その女性から目を話すことが出来ませんでした。
すると女性はかすかにその口を釣り上げ笑ったかと思うと、何事もなかったかのように静かに歩き出し、街の中へと消えて行きました。

その日は、Aが「俺死んだりしねぇよな」と一言話したきり無言のまま別れました。
しかし私が怖かったのは、後ろでその店の店主が「なんやあれ」と言ったことでした。

彼女は生きていたのでしょうか、だとしたらあの家は一体どういうことだったのでしょうか、Aは店主の言葉に気づいていたかわかりません。
少なくともアレは私達の存在に気づいていたようでした。

その出来事を私もAも、BやCに言ってはいません。

お話は以上になります。
不完全燃焼なオチで非常に申し訳ないですが、恐ろしさのあまりそれ以降真相を突き止めることがどうしてもできませんでした。

余談ではありますが、いまもAもBもCも元気に生きております。
時々Bがあん時はヤバかったよなwと当時の話をしますが、Aも私も濁したような返事しか出来ません。

いまもその家あるそうです。