実話です。
かなり昔の話だが、今でも気になるので。

村の神社は日吉神社ということで、村から少し離れた山裾にお寺と並んで建っている。
幼少の頃、その神社の境内やお寺の庭に、一人でよくセミを捕りに行って遊んだ。

ある夏の朝、2、3匹のセミを捕えて大喜びで、そこの階段とそれに続くスロープを駆け下りたとき、下り切ったところで転んで、手足に大怪我をした。
その怪我を見て、今は亡き祖母から、「あの宮さんは気を付けたほうがええよ。◯◯さんのお父さんも、この間石積みの作業中、大怪我をしたんよ。祟っているのかも知れん」と警戒するように言われたので、怪我の痛みに懲りたこともあり、それ以後、神社でのセミ捕りはやめた。

子供心に、生き物を捕獲して自由を奪うことはよくないのかな、という反省もあった。

その後何十年も経ち、台風で神殿の片方が暴風による倒木の下敷きになり、ペチャンコに破壊されてしまった。
村の氏神でもあるから、急いで寄付金を集め建替えを進め、やっと御神体の納め替えの段取りになった。
それで大安吉日、神主さんが潰れた旧い神殿の跡から御神体を取り出そうとしたとき、なんと、7~8cmの大きさの白いキツネの瀬戸物が出てきた。

それが木漏れ日の日射しを受けて、一瞬キラリと光ったと思ったら、『みたな~~』と、木立の陰から低い声のようなものが響いてきた。
私はあの幼少の大怪我の記憶がよみがえり、「わっ!」と思わず声を上げてしまった。
そして、同席していた村の人たちをそっと見回した。
が、みんな何事もないような顔をして神主さんの一連の作業を見ていた。

後日思った。
村の民家には一棟も被害らしい被害がなかったのに、神社だけが倒れたのは、狐(の霊)を叩き出すためであったのだろうと。
しかし残念なことに、神主さんは新しい神殿に戻してしまった。

日本には何万という数の神社があるが、その古いものの前身の多くは、呪術のため、獣や蛇などの動物の霊を祀っていたものと思われる。
呪術には、生霊の憑依・祟りや呪いを利用することが多いらしいが、あまり不用意に近づくと、この種の呪いの餌食になるだろう。