今から30年ほど前の季節は晩秋の話。

夕方にジョギングを日課にしていたのだが、その日は所用で遅くなり、すっかり日も暮れた頃にジョギングに出発した。
時間も遅くなったし車の多い道は避けて、滅多に車が通らない農道や林道があるコースを走っていた。

片側が山林の農道を走っていた時に、前方から一台の車がゆっくりとやって来て反対車線の斜め前方にその車は止まった。
何かと思い訝しんでいると、その車の運転席の窓を開き、車中から女が声をかけてきた。
なんでも道に迷ったのだと言う。

目的地を聞かれたが一本道を進み国道へ出れば右折して真っ直ぐだと言うと、暫しその女は黙りこみ突然、「昼間会いましたよね」と色々と話かけてきた。

そんな覚えはないのだが?
もしかして知り合いなのかな?

そのとき上下一車線分以上ある距離では、暗くて顔をよく確認出来ないため7~8mほどある車に近寄ろうと3~4歩近付くと、スモークガラスでそれまでわからなかったが、車の計器類の明かりで後部座席に3人が乗車しているのに気付いた。

なにか嫌な感じがして「人違いでしょう、道は真っ直ぐいって突き当たりを右ですよ」と告げ、前方に再び走り始めると、その車は少し前方に走り出したかと思うと横路に一旦入りUターンしてこちらに向かって来た。

身の危険を感じて少し先の舗装路から外れた未舗装の林道に逃げ込んだが、その林道にも車が入り込み追ってきた。

これはまずい!と林道を外れ、林の中に逃げ込みながら国道方面へと逃げることにして、必死で藪漕ぎしながら300mほど進んだだろうか、比較的平坦な田んぼの畦道に出て身を低くして林道方面を見てみると、林の中を自分を捜して2柱の懐中電灯があちこちを照らしている光が見えた。

警察に届けはしたがパトカーの巡回を強化すると言うことで、不審者情報として書類にサインさせられただけで終わってしまった。