昭和50年代。
俺が中学生の時に母親の実家である北海道のS町、札幌から国鉄で5時間くらいかかる田舎で体験した話。

S駅で顔見知りの駅長さんと雑談していたら40過ぎのやせた陰気な感じの男が駅に入ってきた。
駅長さんの話によると男は最近起こった事件の当事者とのことだった。
男は耳が全く聞こえないので、事件のこと教えてもいいけどけどジロジロ見たりしたらだめだよと釘をさされてから聞いた話はこんな内容だった。

男は数年前にS町に引っ越してきた人で山の中の一軒屋にかなり若い妻と二人で暮らしており林業で生計を立てていた。
男の家では町の店から食品や日用品などを届けてもらっていたのだが、商売のため家を留守にすることが多く、いつのころからか男の妻とその店の若い店員が関係をもつようになっていたらしい。

この先は地元の警察の推論。

男の留守中に妻と店員が家で会っていたところ予定より早く男が帰ってきた。
あわてた二人は木材の倉庫に隠れたのだが男は気づかずに扉に鍵を掛けてしまった。

二人は隠れているのをあきらめて扉を叩いて助けを求めたと思われるが男は耳が全く聞こえないためにそれに気づくことはなく、数日後に扉を開いたときには二人とも死んでいた。

激しく扉を叩いたため二人の両手は傷だらけだったとのこと・・・。
この事件は不幸な事故ということで決着したが、色々と悪い噂がたち男は町を出て行くことになったという。

・・・札幌行きの列車がまもなく到着するということで改札が始まった。
当時の田舎の駅にデジタル時計なんて気の利いたものはなく、町内会寄贈の柱時計が使われていた。

午後三時。

「ボーンボーンボーン」と背後から時計の音が聞こえたその時、俺のすぐ目の前にいた例の男が腕時計を見て時刻を合わせていた。

・・・耳は聞こえていた。